1.《ネタバレ》 網走番外地シリーズの懐の深さというか、デタラメさがよく表れた一本です。もはや完全にコメディ路線。だけどラストだけは突然、任侠指数がまさに指数関数的にハネ上がる、という謎の構成。よくもまあ、こんな企画が通ったもんです。網走番外地だからこそギリギリ可能なのであって、昭和残侠伝ではこんなこと、できません。
冒頭、刑務所内でイザコザがあり、あわや命を奪われそうになった健さん、それをすんでのところ岡田真澄神父が救う。というところまではいいのだけど、晴れて出所した健さん、何をどうトチ狂ったか、この神父こそ我が親分、と言う訳で親子の盃を交わし、教会での神のしもべとしての生活を始めることに。
この勘違いぶりだけでも充分、寅さん級の暴走なんですが、さらに教会のシスターに一目ぼれしてしまうに至っては、いやこれも寅さん路線ですけれども、後の東映で言えば、いかにも菅原文太向けの役どころ。それを健さんが演ってる、というのが、見てて可笑しくもあり、気恥ずかしくもあり。
シリーズの持つ暴力指向みたいなものは、この作品では比較的健全な路線に置き換えられ、ボクシングを通じて表現されます。教会に対し敵対するグループも登場しますが、教会の運営するボクシングジムの若者(谷隼人)に目をつけたり、彼に八百長を強要したり、まあ、そんなところです。
一体この作品のどこが「吹雪のはぐれ狼」なんだよ、という訳ですが、ここでの健さんは「迷える子羊」ではなく「迷える狼」、ではあるかもしれません。はぐれてはいない気もしますが・・・。そして「吹雪」。実際、いくつかのシーンではひどく吹雪いています。別に物語の上では、わざわざ吹雪の中で撮影する必要はなかったかもしれませんが、でもこういうシーンがあると雰囲気が出て、いいではないですか。
ここぞというシーンで長回しを用いているのも印象的。健さんと谷隼人がリングで向かい合うシーンでは3分近くを一気に見せ、それを見守る岡田真澄とのやり取りのカットを挿入した後、また長回し。
ボクシングのシーンで本格的なファイトを期待するのはさすがに無理がありますが、谷隼人の搾り上げられた肉体もあり、違和感の無い、迫真のシーンになっています。
終盤、いきなりとってつけたような悲劇が彼らを襲い、殴り込みを決意する健さんの姿をまた長回しで捉えた後、いよいよ敵の本拠地に乗り込むと、そこに待ち受けるのは若山富三郎。ひとりストーブにあたりながら餅を焼いてるその姿が、哀愁があって良いんですよねー。
こういう、作品のあちこちに突然現れる「良さ」が、また本作を珍作たらしめているような気もしますが。