1.《ネタバレ》 モスクワ駐在のアメリカ人記者と、故郷を離れてモスクワに不法滞在している不思議ちゃんなロシア人娘との悲恋です。この不思議ちゃんを演じますのが、我らがゴールディ・ホーンでございます。このころのゴールディは、そのキュートさがピークを迎えようとしていた時期なので、その殺傷力は半端ないです。彼女のキャラは『キャバレー』のライザ・ミネリみたいな感じで、政府の大臣からソ連では御法度のジャズ・ピアニストまで幅広くお付き合いする惚れっぽい女です。大臣の愛人なのに囲われ者的な暗さは微塵もなく、父親ぐらいの年齢差がある男でも心底惚れている感じが、いかにもゴールディらしくてイイです。実はこの大臣が度量の広いというか融通の利く男で、ハル・ホルブルック演じる特派員やアンソニー・ホプキンス演じる反体制的な体育教師ともみんな友達という感じで、この人間関係も『キャバレー』と通じるところがあります。 が、しかしですね、この映画は脚本の出来が良くありません。肝心のゴールディの魅力を活かしきれていないんですよ。不思議ちゃんのくせに突然に愛国者みたいな言動をしたりで、どうもキャラ設定がぶれてるんです。その半面、この映画のハル・ホルブルックは実に魅力的な男です。よく観るとオマー・シャリフを西洋人にしたみたいな表情が渋すぎです。この人は現在も現役の息の長い人ですけど、けっこうフィルモグラフィは豊富な割にはあまりに過小評価されてきたんじゃないでしょうか。 ラストでゴールディは身分証を持っていないことがばれて逮捕され、5年の流刑となってハル・ホルブルックとの永遠の別れになってしまいます。普通の国では「えっ、これが犯罪なの?」ということなんですけど、そこは共産主義国家の恐ろしいところです。