1.《ネタバレ》 閉塞感漂う、イタリアの寂れた地方都市。そこで犬専門の美容室『ドッグマン』を細々と経営するマルチェロは、自己主張が大の苦手で頼まれたら嫌とは言えない気弱な男。それでも離婚した妻との間にできた娘との月に何度かの逢瀬だけを楽しみに、慎ましやかに生きていた。そんな彼の目下の悩み、それは小さなころからの腐れ縁である荒くれ者で街の厄介者として有名な親友シモーネとの関係だった。薬物に目がなく、気に入らないことがあるとすぐに暴力を振るい、マルチェロのことを都合のいい奴隷のようにしか見ていない彼に、それでもマルチェロは強く出ることは出来なかった。どんどんと調子に乗って暴走してゆくシモーネに、なすすべもなく引きずられてゆくマルチェロ。やがて、彼らのそんな歪な関係性は取り返しのつかない悲劇を生んでしまうのだった……。という見れば見るほど気が滅入るような暗いお話なのですが、ストーリーテリングの巧さや登場人物への深い洞察力等によって最後まで惹き込まれて観ることが出来ました。まあリアル版のび太とジャイアンのお話と言ってしまえばそれまでなんですけど、とにかくこの主人公の見事なまでのヘタレ具合が凄いです。明らかにいいようにこき使われているのにそれでも嫌といえず、理不尽な理由で酷い暴力まで受けているのに最後までその荒くれ者を親友だと信じようとする、まさに負け犬の見本のような男。最初は嫌悪感しか湧いてこないのだけど、ここまで徹底されるともはや圧倒されますね。だって、親友が犯した罪を被って刑務所にまで入ったりするんですもん。もはや馬鹿を通り越してある種の聖人なんじゃないかしらとまで思っちゃいますわ。そんな彼も最後はぶち切れて暴走しちゃうんですけど、惜しいのはこのぶち切れ具合がいまいち中途半端なところ。もっと突き抜けてくれないと、そこまでカタルシスが得られず、印象に残りにくいんですよね~。と、最後の方が腰砕けちゃいましたが、この濃密で殺伐とした雰囲気は嫌いじゃない。まあボチボチってとこでした。