4.《ネタバレ》 深い哀しみから夫婦の愛が立ち直っていくという心温まる良い話だとは思います。でも、何かしっくりと来ない。いまひとつムクドリとの交流が生かされていない?否、取って付けた感があると言った方がいいかも。
確かに、ある意味孤独と戦うリリーに生きる力を与えたのはムクドリでしょう。たまたまテリトリーに入って来た彼女を追い払おうとしたことがきっかけとなって敵対関係になったリリーとムクドリ。ただ、かと言ってリリーは毒を盛る気もなく(結果、犠牲は出てしまった)、雛を見れば巣を壊すのを躊躇う(ソックス故かも)、彼女の優しさと母性はムクドリ一家を心から憎んでいる訳ではない。挙句、成り行きからムクドリを傷付けてしまった彼女には贖罪の意識さえ芽生え、介抱を通じてムクドリと心を通わせようという(もしかしたら自らの心を落ち着かせようとする意味の方が大きいかも)行動に向かう。そしてそれは、次第にジャックに向けた感情にまで影響していく。
一方ジャックは、服薬を拒否し妻を拒み周囲の全てに心を閉ざしているものの、そんな自分がどうしたら良いのかという課題に対して本心から背を向けてはいる訳ではない。以前から発症していたという告白から考えるに、(不安定この上なく決してよろしくないことだとは思いますが)彼は良きにせよ悪しきにせよある程度自らの症状をコントロール出来ているのかも知れません。結局彼は自らの力によって前を向き始める。勿論リリーの存在はこの上なく大きなものではありますが、ムクドリとリリーの関係が、間接的であっても何かしら影響しているかどうかは作品からは読み取りにくいところです。
なので、あくまでもこの物語はムクドリの存在を意識することによって変容していくリリーの物語のように思えました。強いが故により一層悲しみに打ちひしがれてしまった人間が、より強く生まれ変わり立ち直っていくという。言い換えれば、決して動物が主人公(擬人化や象徴化を含む)の物語ではないように思えた次第です。そのあたりで作り手の意向と私の願望がすれ違ってしまった感があります。そっちを期待していたと言うか。
ちょっと作り物感が強い行動をとるムクドリのCG(自宅に営巣された経験のある身としては違和感あり過ぎ)、(現実的過ぎて)何か煮え切らないように感じてしまったカウンセラーや心療医の行動や言動。印象的・感動的な台詞やカットの数々が散りばめられている作品であるにも関わらず、個人的には妙な消化不良感が残ってしまいました。
ファミリー向け、お子様向けの作品、或いは全編アニメで作られていれば随分と印象が違っていたように思えます。作り手と少々気が合わないままに観終わってしまった1本でした。