1.監督はアジア系で中国で幼少期を過ごしてはいるもののオーストリア在住のほぼヨーロッパの人間であり、台湾で撮影されていながら舞台設定は架空の中国の都市という複雑な背景の作品です。頻出する水のモチーフ、曇天の中の薄暗い映像、ロングショット中心で長回しを多用、同性愛やセックスワーク、田舎の貧しさと抑圧的な価値観、まあ確かに私もこのような映像美やテーマに期待してこの映画を見たわけなのですが、物語に没入するよりも今はこういう要素を散りばめとけば映画祭等で作家性がある作品として高く評価されるだろうという戦略のようなものが見えてくるのでうんざりしてきます。こういういかにもアート映画っぽい要素を取り除けば、内容はややシリアスな恋愛映画程度のものでしかないと思います。嬉しそうにバイクで相乗りする場面なんか何度も同じようなシーンを過去の映画で見た気がします。ヨーロッパの人間が監督した架空の都市を舞台にした作品であることを考慮すれば、これが現実の中国の同性愛者の境遇や社会問題を描いたものとしてそのまま受け取ることもできないでしょう。別にステレオタイプだとか差別的とまでは言いませんし真面目に作られてはいるのですが、新しい視点を得られるような作品ではなかったです。