4.《ネタバレ》 数年前に引退の報が伝えられていたカウリスマキが引退を撤回して撮った、実に彼らしい一篇。
スーパーで働く「ゼロ時間契約」なる労働形態の女と、どうしても酒がやめられない工場労働者の男。
カウリスマキの映画らしい、器用に生きていくことができない男と女のラブストーリー。
相変わらず登場人物の間には独特の隙間があり、微妙な沈黙の時が流れる。
せっかく女から電話番号を聞いたのに、電話をかけることができないもどかしさ。
せっかく男に電話番号を教えたのに、電話がかかってこないもどかしさ。
食事の約束の前に、女は新しい食器を買い、男は花を買う。
台詞の無い2人の間に流れる時間や思い、変わらないカウリスマキらしい表現方法に嬉しくなります。
2人がデートで見た映画が、同じく登場人物間の隙間が特徴的なジム・ジャームッシュの「デッド・ドント・ダイ」
カウリスマキからジャームッシュへの友情か敬意か。こんな遊び心の挿入もまた嬉しかったりします。
これまでの彼の作品に登場した男と女と同じく、本作の2人の今後にも苦労はあるだろうけど、
ささやかなユーモアと共に確かな希望が感じられる、ラストの2人と1匹で歩いていく姿がまた良かった。
それにしてもなぜカウリスマキは再び映画を撮る気になったのだろう?
序盤からラジオを付ける度に頻繁に流れてくるウクライナ戦争のニュース。
中盤、2人が食事をする際に音楽でも、とかけたラジオからもウクライナ戦争のニュースが流れてくる。
それに女が一言、「酷い戦争」と吐き捨てラジオを消す。以降、ウクライナのニュースが聞こえてくることは無かった。
映画人として、何らかのメッセージを発せずにいられなかったのかもしれません。