2.《ネタバレ》 題名の印象と違ってアメリカ映画だった。韓国人のお母ちゃんが押しかけて来て恨み言をいうならいかにも怖そうだが、ホラーというより北米の韓国人移民の物語になっている(脚本兼監督はカナダ出身)。
なお英題がUMMAなのはオンマ/엄마のㅓが、例えば太陽/SUNという時のUに近い音だからということかも知れない。韓国語の正規のローマ字表記法ではEOMMAとなるはずだが、それではアメリカ人が(日本人も)読めないわけなので監督の判断を尊重する。
内容的には人間ドラマが中心であって怖さは感じない。超常現象や変なケモノが出ることの必然性もないようだが、監督の考えとしてはホラーというジャンルを使えばテーマを極限まで突き詰められるとのことで、それはその通りと思われる。
題名との関係からすれば母子のドラマが中心で、母~主人公~娘の三世代にわたる母子関係を重ねた形になっている。また、そこへさらに移民の一世~二世~三世(でなく0~2?)という関係も重ねていたようだった。前の世代との間で呪縛と化したつながりを断たなければ前には進めないが、つながっていた記憶自体は失わないことで、自分という存在の原点を心の中で守っていきたいという意味か。白人風に見える娘が母親とともに韓服を着て、墓碑に拝礼していたのは他人事(他民族事)ながら若干感動的だった。
また商店主の姪が言った「自分だけが変な人間だと思うのは間違ってる…」というのは北米社会の包容力を示したものと思われる。これに関して日本社会がどうかは少し考えさせられるものがあったが、適法に入国して現地社会のあり方を尊重し、自ら分断を図ることなく平和に生きるなら、その上で故郷由来のアイデンティティを守ろうとするのはいいのではないか、という少しリベラルな気分になったりはした。韓国の本国社会はどうか不明だが。
その他、映画では韓国(朝鮮)の伝統的な事物を紹介していたが、韓服とかお面は別として、「千字文」や九尾の狐、あやとりは韓国(朝鮮)限定のものではないとアメリカ人に言っておきたい。夜空の月が最後に満月になったのは、月が満ちて機も熟したというようなことの表現かと思うが、これも東洋的な感覚か。
また全くどうでもいいことだが、韓国語の初学者にとって言い分けにくい+聞き分けにくいが意味の違う言葉として달・탈・딸が有名だが、この映画にはその三つが全部出ていて感動した。달は映像だけで台詞に出なかったのが残念だ。