1.《ネタバレ》 ポン・ジュノの本当に撮りたかった映画はこれだったのか?
搾取される側が体制に反旗を繰り返す話と言えば、過去作の『スノーピアサー』を思い出す。
格差というテーマは本作でも登場するが、そこに生命倫理が入ってくる。
というのも、先代の記憶を受け継いだクローンが主人公だ。
"使い捨て"として幾度か死んで甦るも、それは自分自身という"他者"の記憶を共有しているに過ぎない。
そのことを色んな人に聞かれても、「気分は最悪」としか言いようがないだろう。
搾取されるということは人間扱いされていないのと同義。
氷の惑星のクマムシみたいな生命体もそこに含まれる。
何で主人公を助けたのか、そこの掘り下げが欲しい。
権力者の都合で平然と尊厳を踏みにじる夫婦がマンガみたいに分かり易い悪役で如何にもと言ったところで、
主人公と同じく借金取りから命からがら逃げた友人のティモも平然と裏切るクズの小悪党。
搾取の階層が浮き上がる構図ながらその設定が上手く活かされていない。
なんせダメ人間のはずのミッキーがエリートなヒロインのナーシャと恋に落ちるのが不自然で、
裏があると思ったらそうでもなかったし、カイからもモテモテだけど彼女の出番はそのくらい。
もっと膨らませることのできる展開がいくつもあったのに全てが尻すぼみで終わってしまうのだ。
過去作みたいにもっとシニカルで居心地の悪いラストを期待していただけに普通に大団円風なのも頂けない。
これでは大ヒットは望めないだろう。
次回作は『殺人の追憶』や『母なる証明』のような現実的なサスペンスものを期待したい。