1.《ネタバレ》 2023年の東京国際映画祭で本作が紹介されており、劇場公開を期待していた。
イラン政府の家族や立場を人質に取ってでも棄権を強要するやり口には憤りを覚えるし、
柔道の指針である「心・技・体」の精神に背いていて、国家としての参加資格はないだろう。
スポーツと政治は別物のようでいて表裏一体。
歴史上、国威発揚と言いながらプロパガンダの道具にされたことなど数知れず、現在でも変わらない。
工作員が大会の観客として、スタッフとして紛れ込み、揺さぶりをかけてくる。
信頼していたコーチからも同じチームの選手からも孤立し、
人生を賭けた試合で肉体もメンタルも限界の中、レイラはどう勝ち上がっていくのか。
同時に訳ありなコーチの葛藤や心の機微も綿密に描写しており、もう一人の主人公と言っても良い。
モノクロでスタンダード比率の画面が映像を引き締め、閉塞感を強調する。
(低予算で観客のエキストラを呼べない、チープさを誤魔化したいのもあるが)。
己の立場や面子より試合を続けさせるために二人を守ろうとする柔道協会のスタッフの奔走、
一度はレイラを裏切ったコーチが「負けるな!」と応援する展開が熱い。
スポーツにはフェアネスがあり、尊厳があってこそ成り立つものだと認識する。
それでもレイラは準決勝で負けてしまうのだが、もしイスラエルの選手と戦っていたら、
優勝する展開があったら、リアルで大問題になってしまうからか、フィクションとは言えあえて出し惜しみしたのかな。
政府の意向に背いたコーチは拉致されかけるが逃走、柔道協会に助けを求める。
そしてレイラに自分の嘘を告白し和解する。
国家に利用されるだけの嘘だらけの人生に別れを告げ、一年後、亡命先のパリで難民代表として再スタートを切る二人。
イランに限らず、母国から亡命した人々が祖国に戻れるように、
良い国だと誇れるように少しでもマシな未来になってほしいものである。