1.《ネタバレ》 有名な「新感染」の監督がかつて作ったアニメだそうである。Netflixのドラマ「地獄が呼んでいる」の原作マンガのさらに原点になるものらしいが、これはNetflixでなくAmazonプライムビデオで見られる。
内容としては「地獄」(지옥)という題名の短編が2つ入った形になっている。うちpartⅠ(10分)は2003年、partⅡ(24分)は2004年の制作で、これをセットで2006年に一般公開したとのことだった。動画としては粗く見えるが描写はリアルでひたすら陰惨な雰囲気を出している。人体模型的な残酷場面や、生々しい性描写(金玉が見える)があったりするのでお子様向けでは当然ない。
劇中世界では、天国・地獄に関する制度が確立していて世間の共通認識になっている。天使が天国または地獄行きを通告するが、逃げる手もあるからには定まった運命の予言でもなく、当局の判断による処分を予告するものらしかった。現実世界でいえば北の抑圧国家を思わせるものがあり、厳しい監視体制があることも描写されている。婚姻にまで関与していたのは人生全体を管理している印象があり、また自殺すれば地獄行きというのは道徳的な判断というよりも、当局による生殺与奪の権を侵す行動は許さないという意味かも知れない。
そういう考え方からすれば、partⅠでの地獄は政治犯の収容所行きのようなものかと思ったが、死んでも逃れられないというのは現実世界よりはるかに過酷な状況ではある。主人公は収容所送りを嫌って逃げ回っている状態だが、天使がそういう選択肢をわざわざ示したのは、意味不明だが現場の取締官が娯楽的にやっていたというだけか。
またpartⅡでは天国というものについて、主人公は苦も楽もない世界と思っていたらしいが、例えば天国に行けば天使など、体制側の役職につく道が開けるとも想像できる。仮借のない非情な体制のようで、主人公が思ったような大衆倫理的な評価で天国行きが決まるものではない気がした。
なおpartⅡの主人公が考えたように、愛する人々と一緒の喜怒哀楽が本当の幸せではないか、というのは実際そのようでもあり、これは後の「新感染半島」を思わせる。しかし結局その愛する人間のために自分も地獄に落ちたのは徹底して皮肉な作りだった。
全体として面白くなくはないが、こういう救いのないものを好む方でもないのでそれなりの点にしておく。ちなみに天使は体型がかなり印象的だった。