1.《ネタバレ》 映画の1秒とは【24フレーム】で作られている。
その一瞬を4分半に引き延ばし、全24章に構成された固定カメラによる映像は美術館の絵画のように並べられている。
凡例としてピーテル・ブリューゲル作『雪中の狩人』が提示される。
静止画に村の煙突の煙が立ち上り、鳥や犬といった動物の鳴き声が聴こえ、雪が降り積もる。
タルコフスキーを意識しているのか、残りの23フレームにキアロスタミの完璧な構図と映像美が全編台詞なしで静謐に語られる。
映画館で上映されていたら確実に眠りに誘うものばかりで、1ショットに集中するにも2分くらいが限界だろう。
次のショットは何が来るのかを期待してしまっているため、現代美術館のビデオアートで1ショット別々に展示されても違和感がない。
ドキュメンタリーのようでいて、かと言って本物と見紛うCGアニメの合成もある。
静止画と動画が混在している。
物語は存在していない。
でも、現実はその集合体で、我々は当たり前のように"見ていない"だけで足を止めて目を凝らせば"物語"に光が当たる。
現実と虚構の垣根をあっさり壊す彼ならではの演出だ。
ラストのフレームでは机の上に突っ伏して寝ている人がいる。
本作を見て寝ている人がいることを想定しているように。
それでも構わない。
映画の見方に数多くの可能性があり、こうあるべきという強制はしていない。
手前のモニターには映画のワンシーンが流れ、THE ENDのテロップが表示される。
キアロスタミと呼ばれる名匠の人生はここで幕を下ろした。
美しいものを遺して旅立っていった。