1.《ネタバレ》 日本でいうコックリさんとかエンジェルさんのようなものを若い連中がおふざけでやっていたら、鏡の中から「スペードの女王」という魔物が出てきて大変なことになったという映画である。ホラーとしては特に怖くもなく、そもそも何が起きたかわからない場面が多かったが、全体的にそれほど悪い印象はなかった。
個人的に気になったのは題名の意味である。邦題は無視でいいとして、英題と原題にある「スペードの女王」(Queen of Spades/Пиковая дама)は19世紀のプーシキンの短編小説、及びそれを原作としたチャイコフスキー作曲の歌劇の名前と同じだが、この映画はそれと全く関係なさそうに見える。
小説の「スペードの女王」は、トランプの「スペードのクイーン」が悪意を象徴するという程度の意味づけだと思うが(岩波文庫版では「悪しき下心」)、一方で現地ではカードの人物が一人歩きする形で、鏡の中から出て来る魔物として語られているらしい(※注)。その実態を単純に取り入れたホラーなのかも知れないが、それにしても世界的に有名な「スペードの女王」を題名に入れておいて、本当に小説と無関係なのかというのが根本的な疑問点だった。
これに関して思ったのは、最後に出た縦長の鏡をトランプのカードに見立てると、そこに顔が映っていた人物(見ていた本人は除く)の「悪しき下心」を鏡が映していたのではないかということである。つまり現地の俗説に合わせてトランプのカードを鏡に変え、その上で小説の意味づけも生かしたのかと思った。
そうだとすると、ラストで主人公はティーンエイジャーになって大人の世界に近づいたが、これまで姉のように思っていた友人が、今後また両親の間を裂く原因になっていきそうなことにどう対応するかが問われる、というようなことか?? わかりにくいが考えさせられる話ではあった。
※注:子どもたちの「召喚」(ウィキペディア「Детские «вызывания»」などによる)
この映画の直接の元ネタは、現地の児童文化として伝わる「召喚」という魔法かゲームのようなものである。これは魔物とか童話の登場人物とか歴史的人物などを現世に呼ぶもので、「スペードの女王」は魔物の代表例らしいが、ほかにシンデレラとかバーバ・ヤガーとかプーシキンとかスターリンなど多種多様なキャラクターが召喚されるそうである。向こうの感覚としては日本の「トイレの花子さん」と同種類似のものということになるらしい。
召還の目的はスリルを楽しむとか、単に存在確認するとか(日本なら家に座敷童がいるか調べるようなもの)、将来のことを尋ねるとか(何歳で結婚できますか、など)、願い事をするなどして面白がることらしい。主に小学生年代の女子グループがやるものだそうなので、この映画でかろうじて該当するのは主人公だけになり、あとの連中は完全に悪ふざけと思われる。さすがに21世紀には廃れ気味のようだが、昔懐かしい風習を改めて思い起こそうとする映画だったか。
ちなみに「スペードの女王」を召喚する場合、扉と階段を鏡に描くというのはこの映画のとおりである。女王が階段を降り切らないうちに階段を消せば来ないそうだが、この映画ではやらなかったので来てしまったことになる。少女の真似して«Пиковая Дама, приди!»と言ってみたくなるが怖いので言わない。