8.《ネタバレ》 ルイス・ブニュエル最高傑作の一つ。
ブニュエルといえば何を考えているのかわからない変な映画(それが面白いのだけど)が多いが、本作は明確な社会的テーマを生々しく捉えた作品だ。
リズムやストーリーの密度は確かに凄いし面白い。たった1時間15分とは思えないほど話が詰まっている。
ブニュエル映画特有の音、悪夢、女への欲情もそろい踏み。
この「忘れられた人々」はメキシコの歴史から「忘れられた」名も無き人々の生き様を描いていく暗いストーリーだそうだ。
生活のために必死に金を稼ぐ少年、それをことあるごとに邪魔する不良グループ。
特にそこのガキ大将のハイボ。
盲目の楽士や足のない紳士から金を巻き上げ、さらには少女や子持ちの母親にまで手を出そうと(劇中ではちょっかいを出す程度)する筋金入りのクズだ。
余りにクズすぎるので妙な愛着すら出てきてしまう恐るべきクズ野郎である。「時計じかけのオレンジ」よりも愛すべきド畜生と言える(きっと褒めてる)。
ハイボの妨害に負けるものかと孤独な戦いを続ける少年。
カメラに向って卵を投げつけるほど苛立ちはつのる。
1対1のケンカに挑む少年、落ちたナイフでハイボを敗走させた。それにしても引き際を知るいじめっ子だ。
障害者への差別、躊躇なく動物を殺すシーンなど倫理に訴えかけるような生々しい描写、ラストの後味の悪さも手伝って賛否が分かれる作品だろう。
それでも見て損はしない、ブニュエルの傑作として歴史に残る作品だと俺は思う。他人は忘れても、観客は一生忘れない。