1.《ネタバレ》 主人公草介が始めて映画監督にチャレンジする人気ミュージシャンという設定で、監督の小田和正自身がモデル。
デビュー作「いつかどこかで」に続く二作目で、デビュー作で苦労した実体験が生かされている。
映画の基礎知識もない素人監督の甘さと、熟練スタッフの強烈な自負心がリアルで、双方の軋轢が伝わってくる。
この辺りは、俯瞰で見つめることができる小田監督に少し感心してしまった。
多くの人の共感を呼ぶ歌詞をつくることができるだけあって、人の気持ちを察する繊細さが生きてくる。
草介は自分と元恋人の信子のことを映画にして、信子を女優に復帰させている。
自伝的映画を撮って、信子とのことを完了させようとしているわけだ。
ところが、信子は草介の書いたセリフが自分の気持ちとかけ離れていてそのセリフがどうしても言えない。
そうした信子の感情が伝わりきらなかったせいか、二人の恋愛感情に乗れなかった。
信子が別れを肯定的に受け止めた流れも、いまひとつ掴めない。
なので、エンディングの撮影での信子のセリフも、感動するまでには至らなかった。
草介の映画づくりの動機が恋愛がらみの極めて私的なものだったのが、ちょっと気に入らなかった。
映画づくりへの思いというより、信子への思いが先行している。
一人で何でもできると思い上がっていた草介が、みんなの力で作り上げることに目を向ける過程はそれなりに感動的ではある。
ただ、急にスタッフが草介に協力的になったのはできすぎの感も。
草介のやったことは重さんに訴えたこととスタッフに手紙を書いたことで、事態をまるっきり変えるには描写が弱い気がする。