1.ムツゴロウ(畑正憲)という人の世間一般の印象というと、やはり「ゆかいな仲間たち」の「動物好きのおじさん」というイメージなのだろうか。中にはそれを「偽善的」「エセエコロジスト」と感じる人もいるかもしれないし、また心ある映画ファンからするとあの「REX」原作者ということでA級戦犯と見なされていたりもするのかもしれない。で、中学の頃彼の著作を読み漁り、結構本気で「大人になったらムツゴロウ王国に行こう!」と思っていた僕からすると、そういう風潮に対しては腹が立つ、とまでは行かないがある種の「歯がゆさ」を感じずにはおれない。彼は単なる「動物好きのおじさん」ではなく、その中に野性・獣性、つまりは「荒ぶる魂」を秘めた人だと、僕は思っている。彼の著作は軽妙なエッセイが多いのだが、その中にも彼独特の「荒々しさ」は込められているし、「REX」の原作「恐竜物語(蛇足だが確か恐竜の名前はレックスではなくレフティだったと記憶している)」だってかなりスケールの大きい物語だったりするのだ・・・ってな事を常々思っていた所、本作のビデオを発見。あまり期待はしていなかったが「ま、話のタネにはなるかな」と思い観たのだが・・・ひょっとすると普通の人が見ればそこそこの「ほのぼの映画」なのかもしれないが、原作を知っている者からすると「REX」級のヒドい代物だった。先述した、原作中の「荒々しさ」を物語る部分がバッサリと切られ(例えば原作では、友達に誘われて参加したデモで機動隊にボコボコにされ「殺意を覚えた」というエピソードもある)、世間的な「ムツゴロウさん」のイメージ、すなわち「動物好きの善人」として描かれているのだ。その描かれ方の薄っぺらさと言ったら!それならばいっそのこと全然原作と違う話にしてしまえばいいものを、まるで言い訳の如く、部分的に原作のエピソードに忠実だったりするのが余計に腹が立つ。ムツゴロウ役が「元祖“いいひと”」井上順だという事から覚悟すべきだったのであろうが、ここまで酷いとは思わなかった。敢えて見所を探すならば、ギラついた所が垣間見える若き日の蟹江敬三位のものか(いっそのこと彼がムツゴロウ役だったらよかったものを)。それにしても畑正憲と映画ってホントに相性が悪い。