4.イ・ミスク演じる主人公が、鏡に向かって「ミッチョッソ…」とつぶやくシーンがある。字幕は「どうかしてる」と出ていた。直訳すると「狂ってる」ということなのだが、この言葉は、精神的にちょっと普通じゃない状態を表すものとして、日常的によく使われる。
恋というのは狂うものだし、いかにふたりの男女が狂っていくかを見せるストーリーだから、これでもかとセックスシーンがあるのはいいのだが、小学生の息子のバスケットの試合を応援しに来ていて、その場に不倫相手の男を呼び寄せ、だれもいない理科室でことに及ぶ、というところまでいっては、見ているほうが「ミッチョッソ?」とつぶやくしかない。
デキてしまうまでは、男もよくしゃべるし、なかなかかわいいところもあるなぁ、と思えるのだが、いったん体の関係ができると、抱き合うばかりでセリフはぐっと減り、たいくつになってくる。気持ちを確かめ合うまでのたゆたいが恋愛の醍醐味だとしたら、それはこの映画だけの咎ではないが。
主人公の衣装は紺かグレーで、ごくかっちりしたデザイン。地味な化粧に落ち着いた話し方。これでもセックスアピールを感じさせ、若いイ・ジョンジェが夢中になるという設定に無理がないのだから、イ・ミスクの演技と美貌はすばらしい。イ・ジョンジェは、年上の女をまっすぐに見つめるまなざし、引き締まった体はいいのだが、どうも中身が空虚に見える。というか、ふたりとも中身など空っぽなほうが、役柄にあっているのかも。
主人公の夫は建築家という設定で、住んでいる家はモノトーンに統一され、まるで生活感がない。都会と湖の対比など、風景の内面への誘導の仕方がきれい。また、ドアにあいた穴や、水槽にまつわるシーンなど、伏線がいくつも気持ちよく回収されていって、きちんとまとまった脚本ではある。