<ネタバレ>すでに内容を知っている観客をターゲットにしているのかもしれま .. >(続きを読む)
<ネタバレ>すでに内容を知っている観客をターゲットにしているのかもしれませんが、そうでない者には、前半部分のスピーディーな推理についていくのは、ほとんど不可能です。誰が誰だか分からないし、どんなアリバイがあって、どんな謎に直面しているのか、ひとつひとつ整理しながら理解するのは難しい。ただゴージャスな映像の美しさと、上流階級の会話の雰囲気を、ぼんやりと味わうだけが精一杯でした。
その反面、後半になると、人種も国籍も違う乗客たちが、なぜかみんなアームストロング家に関係しているという不自然な事実が分かるので、もはやその時点で犯人探しの面白みは消えてしまいます。きっと共犯なのだという結論が先に見えてしまう。
では、この物語のどこに面白さがあるかと言えば、乗客らがこぞって私刑を実行するにいたった「動機」が明かされていくところであり、それによってポワロ自身の「善悪の観念」が崩れていくところであり、それによって「人種や国民性に対する偏見」が無化して、逆にユニバーサルな視点へ達してしまうところなのだと思います。
とはいえ、前半部分のチンプンカンプンな謎解きに費やした時間があまりにも徒労に思えてしまって、最後に充実感を得るほどのカタルシスはありませんでした。