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<ネタバレ>明るく楽し気な雰囲気を包む不穏な重低音。視覚と聴覚の不協和音が印象的でした。何が何だか明かされないままに描かれていくデストピア感からは、最近で言うとアリ・アスター監督とかM・ナイト・シャマラン監督あたりの作品を思い起こさせられるような作風(あくまでも個人的に抱いているイメージですが)を感じました。
そして、まるで共感出来ずイラつくばかりの登場人物のキャラ、発言、行為に只管に鬱々とした気分にさせられてしまう。ところが、物語が進むにつれて少しずつ誤解が溶けて行くと言うか次第次第と登場人物たちの本来の姿・人間性が明かされて行き、やがては感情移入さえしてしまう。作品世界に見事に取り込まれてしまいました。
作品全体としては、現代の国際社会を覆う不穏な空気、とりわけ米国の立ち位置の危うさを皮肉交じりに描きつつ、豊かな世界に生きる人々が意識するしないに関わらず常に晒されている危機的状況への警鐘を鳴らしているといったところでしょうか?SFデストピアものでは定番的な、核戦争や天変地異、或いはAI等の先端技術の暴走や原因不明の疫病の蔓延といった要因ではなく、より現実的で今すぐにでも起きてしまいそうな世界の崩壊のシナリオ。これは恐いです。
奇しくも行動を共にすることになった二組の家族。その一人ひとりの身勝手な思考・言動とそれによる歪な関係は物語が進むうちに次第に収斂していくものの、幼い少女のみがある意味平静を保ったままにラストシーンを迎える。それは不穏な物語が辿り着く唐突なハッピーエンドとも思えるものの、あくまでも個人的で一時的なものであって次の瞬間には悲劇に見舞われてしまうのかも知れない脆い幸福。作り手からの問題提起なのか、単に観る者に丸投げされた結末なのか。
近未来SFという体裁によって描かれる不条理劇。好みの作品に8点献上します。