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<ネタバレ>冒頭から闇討を返り討ちにする柔の技、力に溺れた三四郎が池に飛び込み悟りを開く、かつて入門した道場主を倒し、その娘に恨まれて複雑な関係を築く、仲良くなった恋人が実は倒すべき敵の娘、何度投げられても立ち上がり、娘のために降伏という名の生存を選んだ不屈の闘士、その娘を執拗に狙う強敵「檜垣源之助」との最後の決闘などなどデビュー作にしては度肝を抜かれる場面が多い。
しかしそこはやはりデビュー作。ムラ気と作り込みの甘い部分もあることあること。
肝心の柔道場での試合は取材と指導が足りなかったのか、ワルツを踊るような取っ組み合いからのブン投げ合い。
倒れた敵の上に壊れた障子がゆっくり落ちる・・・この素晴らしい演出が無ければただの柔道ごっこである。
志村喬もこの頃は舌足らずだったのか(「鴛鴦歌合戦」で素晴らしい歌声を披露したのを知っていると余計に)、「強い」と言うはずの場面を「つおい」に。
「つおい」
「つおい 」
「お(^ω^)」
「お(^ω^)」と言ってはいるが、年と共に重ねた強者の風格。
そのオーラを体で表しているのだ。
後の「七人の侍」で久蔵に対して「強い・・・強い!」と力強くポツリポツリと言うセリフからも解る通り、志村喬も常に進化を遂げているのだ。
あの志村喬にも、藤田進にも初々しい頃の若い時代があった。
そんな俳優陣の素晴らしい演技とシナリオ、演出などが合わさって、数々の手不足を補ってくれているのだ。
張り詰めた空気がピンッと弾け、動き出す。
互いに相手の襟を掴み、出方を伺う。
正に男の戦い。
柔術の掛け合いも、最後の三四郎と源之助の対決の時には充分すぎる仕上がりになっていた。
自然の猛威そのままに荒れ狂う空、すすき野を切り裂くように吹き荒む風、そんな風を難なく受け止める頑強な男たち。
ラストの恋人たちの切なくも暖かい別れ場面も清々しい。
幾度も生死をくぐり抜けた男が出せる優しさ。
藤田進はそれを見事演じきったと思う。
そう、この映画は正に「人間ドラマ」に重きを置いた作り込みなのである。
冒頭の戦いの前ですら、三四郎が門馬三郎に弟子入りし、その門馬が目の敵にしていた矢野小五郎に門馬が投げられる。
これで三四郎は360度見る世界が一変。
柔道と柔術のせめぎ合いの中に揉まれながら道を歩み始めるのだ。