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<ネタバレ>俺は「馬鹿まるだし」や「「馬鹿が戦車(タンク)でやって来る」」といった初期の山田洋次の方が好きだが、やっぱ「男はつらいよ」は外せないね。
一人気ままにテキ屋商売で旅を続けるこの男。祭りに飛び込むわ電車に飛び乗るわ船上で張り合うわ何かあるとすぐとっ掴み合いの喧嘩になるわ破天荒で傍若無人、そんな男が「続・男はつらいよ」以降どんどんまるくなっていく。
でも、その自分を偽らない正直さ。それは妹さくらを、家族を思うが故の暴走。もう恥ずかしくなるくらい。だがそれがいい。
それをなだめるかのような存在である志村喬の演技も良い。
「無法松の一生」の「松五郎(阪東妻三郎と三船敏郎)」と「男はつらいよ」の「寅さん(渥美清)」。
これほどまでに日本男児の血を騒がした江戸っ子はいない。
前者は戦前と戦後の日本映画黄金期、後者は日本映画の低迷のはじまりから斜陽の時代も支えた偉大なる江戸っ子。
戦前の小津安二郎の江戸っ子気質を、山田洋次がコメディのジャンルで受け継いでくれた。
勝新太郎の「座頭市」がドラマから始まったように、この「寅さん」もドラマの延長として始まった。
この映画はまさに「映画館で楽しむドラマ」。
ドラマの結末に視聴者からブーイング。
あまりの抗議にキレた山田洋次が「だったら蘇らせて映画で仕切り直したるわ!」とそれが気が付けば全48作品のロングラン作品に。
視聴者の願掛けで蘇ったキャラの元祖の一つである寅さん。
それだけ寅さんの下町人情が愛されていたという事でもあるのだろう。
行く先々で問題を起こしては美人に一目惚れでてんやわんや、結局結ばれずに旅の続きにすたこらさっさ。人々の心は掴んでも恋はいつでも破れて去っていく。この切なさ。
そんな馬鹿野郎な兄貴を親身になって叱ったり励ましたりと寅次郎を見守る真のマドンナ・さくら。
ドラマでは長山藍子、
映画は倍賞千恵子が渥美清と仲良く喧嘩。
脇を堅めるレギュラーやゲスト俳優も良い味を出す。
松竹映画特有のうっとおしいくらいにキッチリとした日本、その中で馬鹿馬鹿しくも儚い日本人の情緒を描いた映画の一つ。