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<ネタバレ>大根役者が親から自立し、歳月をかけて一流の役者に成長するという話。
主人公の菊之助は大役者の親の重圧、自分に才能が無いという板挟みの苦しみ。それを支える奉公女お徳。多少ズケズケとした物言いだが、嘘を付かずハッキリ言っては思いやるその優しさ。言わないことの厳しさよりも、いっそ言い放つ優しさの方が欲しい。それが人間の本音。その辺の描き方が良い。
まずファーストシーン。
歌舞伎のやぐらみたいな部分をぐるりと回し、舞台は歌舞伎の演目。
一場面が終わり、演目を終えた役者たちがゾロゾロ楽屋に入り愚痴をこぼす。
このショットと溝口の独特の間が、退屈を感じさせず観客を引き込む。でも祭りの席での会話は流石に字幕が無いと聞き取れん(最初字幕→次見る時は字幕なしで楽しめよ)。
そんな夏の熱い夜、スイカを食べ一時の至福を噛み締める二人の男女。赤ん坊に蚊帳をかける様子、スイカを斬る描写、口止めされた子供から駄賃で情報を聞き出す絵。
親はダメと言っても若い二人は止められない。太鼓もドコドコそんな二人を後押し。
物語は菊之助が軸であり、男心をじっくり描く、段々と女心も絡ませてくる。
親の心子知らず、子の心親知らず。菊之助のセリフが“溝口”の心を代弁する。
そんな菊之助を慕うお徳。
深まった中で“あなた”と優しく言う。二人の距離が縮まった事を、このたった一言で印象付ける。
しかし菊之助は中々芽が出ない。
5年の旅芸人生活で心が荒み始める菊之助。お徳の献身的な支えが、菊之助にかすかな良心と粘り強さを残す。苦よりも楽、失敗を恐れて現状に甘える菊之助。
そんな菊之助を、お徳は一計を案じてまで元の光の中に戻そうと努力する。こんなええ女何処にもおらんがな。人間一人じゃ生きられない、人の縁が人を活かす。
後に引けなくなった菊之助の覚悟と五年間の苦労が、大舞台の上で爆発する。
そんな姿を見て嬉しそうな表情と何処か哀しみを覗かせる顔をする。自分の運命を悟った上で。菊之助の成長を喜ぶ仲間たち、子の心を理解してくれた父親、だが菊之助の心は満たされない。動き出す列車、川を流れる船が運ぶのは菊之助の栄華か死にゆく者の魂か。菊之助の無言の苦しみがカメラワークだけで伝わって来る。
二人が黄泉の向こう、あるいわ生まれ変わって幸せに暮らせる事を心から願うばかりだ。[良:1票]