<ネタバレ>ノーラン監督のスパイ映画愛に溢れた、それでいて実に珍妙で難解 .. >(続きを読む)
<ネタバレ>ノーラン監督のスパイ映画愛に溢れた、それでいて実に珍妙で難解な作品だった。初見では、ハイウェイでのカーチェイス以降の展開に、頭がついていくのに必死だった。クライマックスの戦争シーンでは、何がどうなっているのかさっぱりわかっていなかった。それでも本作をもう一度観てみたくなったし、他人に本作について語りたくなるという、不思議な仕上がりの映画だった。逆行世界の珍妙な光景や、変テコなルール設定、妙に癖のある不思議な登場人物たち。鑑賞した後で、とにかくいろいろと議論したくなる映画であるのは間違いない。
映画的に質が高いかというと、難点が多いのは否めないだろう。個人的には、逆行が本格化する後半から急激に難解になるため、伏線回収の快感やタイムサスペンスのスリリングさ、そして感動的な人間ドラマが、その難解さのせいで伝わり辛くなっている気がした。正直に言うと、クライマックスシーンでは、逆行と順行の展開を考えるので頭がいっぱいになり、ニールの自己犠牲の尊さや、セイターとキャットのやり取りなどは、すぐに腹に落ちてこなかった。つまるところアクション描写が難解過ぎるせいで、本来映画が企図していたスリルや感動が低減しているのだ。ここはこの作品の最大の難点だと私は思う。
登場人物も癖はあるが、優れた人物造形かというと、そういうわけでもない。セイターには破局を望む理由をもう少し具体的に語らせてもよかったと思うし、キャットとの夫婦関係はちょっと無理くりな感じが否めない。キャスティングも今回はミスがあったのではないだろうか。ニールとキャットは、キャラクター設定と演者の年齢がフィットしていない気がする。一方で、主人公の造形はなかなか好みだった。任務遂行に命をかけるが、一般人の犠牲を良しとしないその性格。スパイのくせにスパイらしくないお人よしな性格は、観ていて好印象だった。特に冒頭のオペラハウスで、一般人を巻き込む爆弾が仕掛けられているとわかった瞬間、躊躇なく走り出した姿には痺れた。彼が自分自身のテネット(信条)を語る場面は少ないが、彼の行動パターンから、彼のテネット(信条)はしっかりと伝わった。