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<ネタバレ>時の移るままに、時代も、社会も、そして人も変わりゆく。煙草も、人種差別も、性別さえも、今や世界から消えゆく運命に在るのだ。まして、善き人間の在り方「目指すべき姿」など、不変で在りようが無い。そんな世界において、親は子供に何を示せるのか。そういった普遍的な親と子の関係性をテーマにとった本作が最後に描き出すメッセージは、親が子に示せる最大のものは「生き様」だという(親が「何を教えたか」ではなく、親が「どういう人間で在ったか」)、これも普遍的な教訓だと言える。
本作に登場する「僕を育てた人」3人は、いずれもかなり変わった性格と、劇中の時代(1970s末)における先進的な価値観を持った女性である。アメリカ社会は丁度この頃に、人生の在り方の爆発的な多様化と、目指すべき統一的な価値観の喪失を経験したのだろう(日本においては、これはもう少し後の時代に起ったことなのではないだろうか。40年前の日本人は、もっと単純で画一的な人生を生きていた様に思う)。
この変わった人達がなんとかかんとか生きていく(そして少年に啓蒙を与えようとその風変わりな価値観を炸裂させていく)様子は、それだけで実に味わい深いコミカルさとヒューマニズムを醸しているが、そんな中に一つ描かれる「絶対的な価値」、アネット・ベニング演じる母親の、男なんかに見向きもしない(女としては)枯れ果てた彼女の内に見えるものは、だからこそ際立つ息子への純粋でひたむきな母性的愛であり、そこに我々はある理想の母親を見出すのだ。
70年代末のレトロ・ポップな雰囲気と、少し知的でかつこれも風変わりでとても「粋」な台詞回しの質の高さも素晴らしいが、奥底に感じられる限りない優しさが実に心地良い静かな傑作。非常にオススメ。