<ネタバレ> 十数年ぶりに観たが、やはり黒澤作品の中でも抜きん出て同時代 .. >(続きを読む)
<ネタバレ> 十数年ぶりに観たが、やはり黒澤作品の中でも抜きん出て同時代の社会そして人間のスケッチが素晴らしい。闇市や復員兵もそうだし、共犯者を押さえるためにプロ野球の巨人-南海戦に刑事たちが張り込む場面では、現役時代の川上哲治の打棒が観られるのもお得感。
物語のタテ糸は、終戦からまだ間もない混沌とした時代、掏られた拳銃を強盗殺人事件に使われたことで苦悩する新米刑事が、拳銃と犯人の行方をベテラン刑事と協力してまさに「犬」のように這いずり回って追跡していく中で警察官としての責任意識、職業倫理を体得して成長していくというところにある。
そこにはまた「新米は先輩の言う通りにしていればそれでいいのだ」という儒教的なパターナリズムも見て取れるし、そして「戦争」によって人生を狂わされた者と、狂う寸前で踏みとどまった者との「モラルの持続」における対照性が色濃く投影されている。
ただ、三船敏郎が風格満々で新米刑事にみえないというのもご愛敬だが、やはり三船の精悍で雄々しい風貌と緩急自在の身のこなしは惚れ惚れする。
黒澤作品における犯罪サスペンス映画の金字塔として『天国と地獄』が挙げられるが、途中で犯人の顔が明かされる『天国~』に対し、本作は最後の最後まで犯人の顔を見せないところがひときわスリリングな演出でとにかく息を飲む。
そして主人公と犯人が対決する時に近所から流れる悠長なピアノの音色。犯人をようやく捕らえた時に犯人の放出する盛大な嗚咽。さらに被さるのが登校中の子供たちの天真爛漫な歌声。こうした「不穏」と「平穏」との絶妙なコントラストを表現する演出の妙。
そこには、苦難を乗り越えて陰鬱な連続殺人事件を片付けた後に訪れる、えもいわれぬカタルシスを感じさせる。
また、この時代の地道ながら綿密な犯罪捜査の過程についても行き届いた描写がなされていて実に面白い。
作品の設定と同じく、うだるような真夏に鑑賞するのも一興だろう。