(2005年 テレビ録画視聴時のレビュー)
山田洋次が .. >(続きを読む)
(2005年 テレビ録画視聴時のレビュー)
山田洋次が初めて挑んだ時代劇。初の時代劇ながら、山田洋次らしい作品になっていると思います。
この作品を観る前に、藤沢周平の同名原作を読んでいただけに、藤沢作品の清廉さにはやはり及ばないかな、と正直思ってしまいます。清廉な世界を表現していたとは思いますが、藤沢作品の世界の美しさは、映像で表現しきるのは不可能なのかもしれません。
庄内(山形)の小藩・海坂藩の平侍、井口清兵衛が主人公。彼は妻を亡くしたために、二人の娘と耄碌した母の世話に追われる毎日。勤務後のたそがれ時に、同僚の誘いも聞かずにまっすぐに帰宅する姿を揶揄され「たそがれ清兵衛」と呼ばれている。
幕末の混沌期、京や江戸とは遠く離れた小藩で、時代の変革期であることは感じていながら、平穏な生活を粛々と営んでいる清廉な武士の姿を描いている作品です。
違和感を感じずにはいられなかったのは、清兵衛の恋物語が妙に強調されている点です。原作では、清兵衛はもっと清廉な人物だったはず。いい年して恋に迷う姿を見せられると、清兵衛の魅力も半減です。
そこが山田洋次らしいところなのかもしれませんけどね。
実はこの作品、エンドロールでわかったのですが、「たそがれ清兵衛」「竹光始末」「祝い人助八」という3つの短編をごった煮にしたもののよう。それがわかれば合点がいきます。この作品での清兵衛は、むしろ「祝い人助八」の助八に近い人物像なんですね。
原作による先入観抜きにこの作品を観ていれば、すっきりとこの作品の世界に浸ることができ、また、清兵衛の人物像にも好意をもてたかもしれません。真田広之の演技の素晴しさにも素直に感動できたかもしれませんね。