1.この漫画は小難しい政治的思想など持ち出す必要の無い、[戦争と原爆を実体験した作者からの読者への手紙]だと思います。存分に物語に浸り、画に姿を借りた作者のメッセージを受けてから、受け手がそれぞれの人生に生かす、それだけで良いと思える価値ある漫画ですね。いつの世でも人間ってのは大激変を自分の利益の道具にしようと考えるし、イザとなれば血の繫がりなど屁でも無くなる。自分が生き延びるためなら文字通りに他人だろうが血族だろうが食い物にする。使い古された言い方ですが戦争より兵器より、遥かに残虐非道で恐ろしいのは[一線を越えた人間の心]。でも、その心で結びついた関係こそが大切なもの、という人間関係の真実を再認識させてくれる素晴らしき傑作です。作者の急逝で未完の大作となってしまったのが惜しい。どんな暴力的迫害をうけても(鬱陶しいほど)清廉潔白に強靭に生きようとするゲンと、人間社会の本質を見据えて裏街道を逞しく邁進する隆太。この[ド根性義兄弟]の生涯を見たかったです。死地を潜り抜けた強固な絆で結ばれながらも、微妙にイデオロギーの相違と仲違いの描写も見えていたので。
それにしても主人公のゲン、物語全編を通じて、可哀そうなくらい頭に災難が多すぎる少年ですね(最後は隆太にまで加害されて、、涙)。