1.映画版は刑務所生活をそのまま映しただけと批判されていたけど、これは花輪和一の偏執的な漫画で描かれるから面白いのであって、普通に実写映画にしたら退屈になって当然だ。この人の画は綿密で上手いんだけれど、なんてことのない無機物にまでどことなく生命感が通っていて、ちょっと気持ち悪くて、面白い。基本的にリアルな画風なのに、ところどころそのリアルな画風のまま比喩的な表現が入る。刑務所の現実をそのまま描いているんじゃなくて、花輪和一といういわば主観の変電機を通して組み替えられた、もう一つの世界を読んでいるからこそ楽しいのだ。
見沢知廉の『囚人狂時代』というやはり獄中生活を元にした面白い手記があるが、あちらの場合は刑務所内のとくに面白いエピソードがふんだんに盛り込まれているのに対して、こちらは丹念に刑務所の日常生活を拾い上げていく。衣食住に関しては案外快適そうだが、トイレに行くにも手を上げて番号を叫ばなければならない煩わしさや、大の大人が甘いものを渇望してあえぐ描写を見るにつけ、やっぱり絶対こんなとこには入りたくないなあと思わされる。画風に拒絶反応さえ起きなければ、なかなかに興味深い読み物だ。