1.オイラの根っ子のひとつになってる作品だなあ。
これを越えて好きになれるファンタジーは、まだない。
紫堂恭子の全作品に言えるんだが、テーマの軸芯とキャラの複眼的な配置が、物語を豊かにしていくように慎重に設計されている。これに加えてディスカッションの多い展開が、トルストイのようなロシア文芸風の香りを生み、かなり19世紀的な、ノンブルでノンキな物語だ。当然、嫌う人は嫌う(オイラの周囲にも大勢いる)。『グラン・ローヴァ物語』以降の紫堂恭子はシステマチックに物語を構築している事もあって、その設計図が透けて見えるのも難点だろう。
だが、彼女の第一作である『辺境警備』だけは違うのだ。そういう手法を手探りで発見して行く、若い漫画家の熱が、たっぷりと含まれている。
「設計図もなしに宮殿を建て始めたら、なんと見事なモノが完成してしまいました」。
そんな感じ。彼女は、自分の土俵とする近世ファンタジーの分野では、小説・映画・テレビも含めて、向かうところ敵なしの天才なんじゃないかと思う。