1.《ネタバレ》 昔、『天国に行けないパパ』という映画がありまして、自分は末期がんだと勘違いした刑事が、家族に金を残すために殉職しようとするがなかなかうまくいかず、それどころか捨身であるがゆえに多くの手柄を挙げてしまうというコメディだったのですが、本作からはそれに近い印象を受けました。
主人公は小市民で戦闘能力は限りなく低いが、死への恐怖が薄いために度胸とハッタリを武器にマジのヤクザ相手に善戦し、数々の危機を乗り切ってしまうという痛快さ。また、ハードな現場に不慣れな者が、右往左往しながら事態への対応を手探りで考えていく姿の滑稽さ。こうしたものがしっかりと描かれており、笑ってハラハラさせる上質なエンターテイメントとして仕上がっています。特に、クレイジーエイト殺害に係る一連の展開は当シリーズの本質をよく表現したもので、ウォルターとジェシーはクレイジーエイトを捕えるもののその殺害には消極的で、本来は敵である彼を殺さないで済む理由を必死に探そうとする倒錯したやりとりが笑わせました。ウォルターとクレイジーエイトは一時的に打ち解けてほのぼのとさせるものの、ヤクザの世界はそれほど甘いものではなく、最終的にはクレイジーエイトを殺さざるをえなくなるという冷酷な着地点もよく考えられており、二人が片足突っ込んだのは修羅の道であることを視聴者に対して強烈に印象付けます。本作における人の死は軽いものではなく、それは生き残った者の心に確実に傷を残していきます。こうした倫理観も本作の味となっています。
また、本作はホームドラマでもあり、アメリカの医療制度の問題点や、終末医療のあり方を考えさせる社会派な一面もあります。さらには、組織論や意思決定論といった経営学的なモチーフがそれとなく登場することもあり、製作者の知見がたっぷりと込められた見応えあるドラマとなっています。他のアメリカドラマと比較するとビックリ仰天するような急展開はなく、勢いという点では見劣りするのですが、安易な視聴者サービスを排除したゆえの堅実な作りには好感が持てます。