1.近年のアメリカテレビ界はどんな職業でも堂々たる娯楽作に仕立て上げることに強みを発揮していますが、本作ではヘッジファンドをテーマに据えています。毎回、難解な金融用語が登場するために若干敷居を高く感じられるのですが、実際にはそれらはあくまで雰囲気作りのための装飾のようなものであり、その意味を特に理解しなくてもドラマは問題なく理解できます。こうした作りの堅実さはさすがだなと感じました。
インサイダー取引や市場操作といった犯罪行為に手を染めながら巨額の利益をあげるヘッジファンド創設者と、その不正を暴こうとする検事のバトルがこのドラマの軸となるのですが、そこに大上段に構えた正義や、社会啓蒙的なメッセージなどはなく、負けず嫌いの男2人が双方消耗しながら泥仕合を繰り広げる様が延々と展開されます。中盤以降になってくると当事者達も視聴者もそもそものバトルの目的すら忘れがちとなってくるのですが、この不毛さ、熱い応酬戦の裏側にある突き放した冷たさこそが本作の味であり、ある種のコメディとしても機能しています。
また、本作の強みは主人公二人が非常に魅力的なことであり、視聴者はそのどちらにも感情移入しながらドラマを見ることができます。ヘッジファンド創設者であるボビー・アクセルロッドは一時期のホリエモンの如く札束で他人の頬を叩くようなマネをしており、表面上はイヤらしい成金そのものなのですが、その背景には彼自身の貧しい生い立ちがあり、一連の過激な行動は支配階層への復讐行為であることが明らかになると、視聴者は彼のすべてを肯定したくなります。二手先三手先を読んだ上での行動に、相対した人間の心の奥底を見透かしているかのような言葉遣い、スリムな体形にラフなファッションと、彼のすべては洗練されており、多くの人が憧れるダークヒーローとして造形されています。演じるダミアン・ルイスは次期ジェームズ・ボンドの最有力候補とも言われている人物なのですが、彼の雰囲気や風貌はこのダークヒーロー役に見事にハマっています。
対する検事・チャック・ローズはウォール街では知られた名門一族の出身にして、一流大ロースクール卒、公判では生涯無敗を誇るNY検事局のトップにして、次期NY市長候補とも言われているエリート中のエリート。しかし、そんな華麗な経歴とは裏腹に彼の見た目は普通のおじさん、日常生活も地味なもので、庶民的な中華料理屋のテイクアウトを食べながら残業をしたり、奥さんの稼ぎがないと私立学校に通う子供の学費を払えないと言って悩んだりと、サラリーマンっぽさ全開なので思わず感情移入してしまいます。また、勝負に執着して熱くなりすぎる余り墓穴を掘ることがたまにあるという人間臭い部分もあって、終始冷静で超人の如く振る舞うアクセルロッドとは何もかもが対照的なキャラクターとなっています。
残念ながら本シーズンでは二人の勝負の決着は着かないのですが、この魅力的なキャラクター達が健在なのであれば来シーズン以降にも大いに期待ができます。