みんなのシネマレビュー |
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ネタバレは禁止していませんので 未見の方は注意です! 【クチコミ・感想(4点検索)】
1.ずばり結論から言ってしまうと、「失敗作」だったと思う。「駄作」ではなく、あえてそう言いたい。 昨年トレーラーを初めて観た段階から、2025年再注目の作品の一つであることはもちろん、個人的には「No.1」候補の筆頭だったのだけれど、結果的に総じてインパクトに欠ける作品だったことは否めない。 近未来、社会のド底辺に生きる主人公が、“生きる”ためにクローン生成された自分自身を「消耗品」としてブラック企業に提供し続けるという、文字通りのブラックコメディ。 『スノーピアサー』『オクジャ』、そして『パラサイト 半地下の家族』へと、世界共通の現代社会の闇を、シニカルで乾いた“可笑しみ”を満載にして描き出してきたポン・ジュノ監督らしい作品世界であり、本作の“導入部”から醸し出されるテーマ性は、手塚治虫の『火の鳥』のような深淵な哲学性をビンビンに放っていた。 ただ、その予感や期待感はストーリー展開に伴って深まることなく、あまりにも類型的な顛末に終始してしまっていたと言わざるを得ない。 何やら面白そうなテーマを手に取ってみたはいいものの、ストーリーテリングや着地点を整理しないまま進めてしまい、結局昇華しきれずに、映画づくりそのものを「妥協」してしまったような、そんな印象を覚えた。 端的に言えば、ストーリーテリングが上手くなく、お話自体も凡庸だったと思う。 主人公が生活と人生に窮し、自らをクローン検体として捧げるしかなくなったという起点は、極めてSF的ではあるものの、見方を変えれば現代社会の困窮をダイレクトに表しており、社会風刺としてとても面白いアイデアだった。 だがしかし、そこから展開される物語に特筆すべき発見やユニークさがあまりなかった。 SF映画の系譜の中で“クローン”を描いた作品は数多あり、アイデアとして出し尽くされていることも、その一因だろう。 一体ずつ生成されるはずのクローンが、ある事故に伴い二体存在してしまい、本人同士の対立やそれによる混乱が生じるという“転回”は、決して目新しいものではなく、その後の顛末においても本作ならではの視点や発展を感じることができなかった。 重複して存在してしまうこととなった“ミッキー17”と“ミッキー18”は、同一人物でありながら性格が少し異なるキャラクターとして描かれるが、その性格の差異が生じている理由も曖昧で、展開に違和感を禁じ得なかったし、その状況をわりとすんなり受け入れる恋人のキャラクター性にも整合性を感じられなかった。 映画全体を通じて、主人公をはじめとして諸々の個性的なキャラクターが登場するけれど、その一人ひとりのキャラクター性がどこか定まっておらず、ふわふわと描かれているので、ほぼすべてのキャラクターがストーリー展開の中で活かされていないことも大きな弱点だったと思える。 マーク・ラファロを筆頭にキャスト陣は、特異な映画世界の中でトリッキーな存在感を放ってはいるけれど、創造されたキャラクター自体が曖昧なので、人間模様全体が空回りしているようだった。 アカデミー賞を制した後初めてのポン・ジュノ作品だったので、個人的にも、世界的にもその期待値は最高潮だったことは間違いない。 それに伴う重圧や軋轢が大いに影響したことも想像に難くないが、ある意味で見事な失敗ぶりだったと思う。 無論、この一つの失敗で、アジアを代表する映画監督への信頼が揺らぐことはないが、次作では今一度彼しか創造し得ない映画世界を期待したい。 【鉄腕麗人】さん [映画館(字幕)] 4点(2025-03-30 18:13:22)
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