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年齢 43歳
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41.  グエムル/漢江の怪物 構造的には同監督作品の「殺人の追憶」とあまり変わらない。黒幕は連続殺人犯でも異形の怪物でもなく、韓国という社会。両作とも印象的なのはソン・ガンホのクローズアップ(「グエムル」ならば、小屋から暗闇の向こうに銃口を向けるシーン)で、彼の視線は映画を飛び越えて、実社会へのまなざしとして観客に投げかけ、映画が終わった後も居心地の悪さを残し続ける。大きく異なるのは、「殺人の追憶」においては犯人=怪物を見せないという事を徹底したのに対し、「グエムル」では群集を襲う怪物としてとにかく見せるという事だろう。前者がサスペンスならば後者はスペクタクル。しかし「殺人の追憶」のサスペンスの支柱となった、韓国の軍事政権下の社会をダイナミックに描いた様は、スペクタクルそのものだったように思う。「グエムル」では、スペクタクルの支柱となる見られる対象としての怪物に、スピード感ある視覚効果やキモいイデタチを与えるが、おそらく10年とか時間が経ったとして、そのフォルムを覚えている者はいないだろう。ゴジラとかエイリアンとか、そして最近だと「宇宙戦争」のトライポッド(怪物ではないが一応)、これらのフォルムや動作が忘れられないのはそれなりの理由があるからだが、「グエムル」の怪物にはそれなりの理由が無い。テキトーな感覚で言うならば、こいつは「企画から生まれた」感が非常に強い。あるいは、「~的」であろうとし過ぎている気がする。地味であるほどに存在感を引き立てるぺ・ドゥナの方がよっぽど怪物なんじゃないのか。映画が高速化する中で、アーチェリーの矢を、しかもジャージ姿で放つ彼女と矢の軌道からは、高速化するサッカーの中で一発のスルーパスに賭ける前時代的なトップ下のそれを感じ取れるだろう。優雅な運動はスポーツ界のみならず、映画からも消えつつある。[映画館(字幕)] 7点(2006-10-09 01:56:37)(良:2票)

42.  鏡の女たち 学生時代に、吉田喜重の授業を受けた事がある。映画学校の授業とか講演会ではなく、普通の大学の、しかも理工学部の中にある一般教養の講義の1つで。その講義は半期で、さらに3人の教員が受け持っていた為、実際に吉田喜重が講義をやったのは3,4回ぐらいだった。映画には興味のない人間だったので吉田喜重なんて当然知らず、その講義の中心となったエイゼンシュテインのモンタージュ論もサッパリ。独特のファッションでボソボソと壇上でひっそり講義を進める吉田喜重はなんだかヤバそうなオッサンに見えた。そして多少強引だが、「鏡の女たち」はヤバイ。原爆を語る、その語り口の浅さがとにかく異様。それに対して語り主である女たちは、世界には女しか存在しないとでもいうかのように、女であることを主張する。吉田喜重は登場人物に原爆を語らせるが、画面上で主張されるのは、女は女であるという事。こっちから登場人物たちに感情移入することは多分ない。岡田茉莉子も一色紗英も田中好子も、既にデキ上がってる。映画としての完成度云々以前に、こういう映画が生まれてしまったことの異様さに寒気がする。面白い映画ではない。でも吉田喜重はヤバイ。[地上波(邦画)] 10点(2006-10-06 23:13:50)

43.  LOFT ロフト(2005) なんだこれは。ホラーなのかと思ったら気がつくとサスペンスに、そして仕舞いにはラブストーリーなってる。しかも時間が経つごとに映画は逸脱の度合いをどんどん大きくしていくし。破綻というスケールに当てはめられないこの逸脱はオリヴェイラ級。役者も凄い。中谷美紀はメチャクチャきれいだし、西島秀俊の最低人間振りには言葉も失う程で、安達祐実なんかは2人の男を破滅に導く役を演じちゃってる。トヨエツに至ってはもはや意味不明。映画ってこんなに面白くていいの?と思わず自問自答してしまうような妖しい艶で画面一杯張り巡らされています。[映画館(字幕)] 9点(2006-09-10 00:46:54)

44.  ゲド戦記 《ネタバレ》 どうも脚本が上手くない。声優の上手い下手は別にして、なんかピンと来ない。例えばゲドが「とりあえず」とか「ほっつき歩く」みたいな事を言うのだが、あなたは本当に大賢人なの?と疑ってしまうぐらいに語彙が貧弱というか。これでは、主人公に道を示す賢明な老人の存在を期待する以前の問題である。あとアレンとテルの後半の臭いセリフ群は、あれは別にそういうものだから気にはならなかったが、一箇所ダイレクトに「心の闇」と言っていた。それは言っちゃあだめでしょう。このアレンという17歳の少年の心の闇がどんなものかわからないからこそ、この映画は作られたのでは?それをそのままアレンの心の闇と言ってしまう事でワイドショーと大して変わらない着地点に降り立ってしまうような気がするが。アニメーションの技術は相変わらず高いと思った。もののけ姫のヤックル(?)のような動物は相変わらずいいし、マントの揺れ方、高所のバランス感覚等、いつものジブリ印は健在だったし、特に今回は夜のシーンが多く、暗色の映像が目立ったが、効果的な黒さが出ていたように思う。そして空のショットは相当に気を使っていたと思われ、雲の動きや色合いは演出とも上手く溶け合っていた。というわけで、ジブリ工房の仕事は相変わらず見事だったが、やはり演出家に問題があり、ポスト宮崎探しはジブリの死活問題であるに違いない、と考えながらハウルを降板した(させられた?)細田守のことが浮かんだりしたわけで・・・[映画館(吹替)] 5点(2006-08-27 02:41:55)(良:1票)

45.  ザ・フォッグ(2005) 《ネタバレ》 霧と共に幽霊が町へ復讐にやってくる、という設定はなかなか面白い。だが、この幽霊は姿が不透明な割に物理的な力が凄い(霧に包まれた部屋から人が吹っ飛ぶ事が何度かある)し、特殊な殺し方もやってのけるので、別に霧に紛れなくとも十分強く、霧による恐怖演出が余り恐怖として伝わってこない。また、良質であることを第一と考えているのかどうかわからないが、全体的に下手に上手くこなしてるので安心してドキドキできるという感じがどうも嫌。「怖い気分に浸りたい為にホラー映画を見ている私は、本当に怖い気分にはなっていない」、これである。[映画館(字幕)] 5点(2006-08-22 21:52:08)

46.  太陽(2005) 《ネタバレ》 銀座シネパトス特有の地下鉄の走行音&微振動と、ソクーロフ映画特有のサウンドとの合成によって、気持ち良さのあまり序盤思わずウトウトしてしまったが、終わってみれば相変わらずのソクーロフ節というか、むしろ昭和天皇を演じるイッセー尾形という俳優を得たことで、ソクーロフの諸作品と比べると親しみやすい映画であったように思う。イッセー尾形の道化ぶり、佐野史朗の狼狽、桃井かおりのぎこちなさ等は普通に見ていて面白く、それらをあの独特の暗色画面の中でやってしまうソクーロフの大胆さも面白い。「昭和天皇は断じてこのような人物ではない」という意見もあるだろうが、それは確かにそうだろうと思う。ただ、そんなことは実はどうでも良く、むしろイッセー尾形が演じるヒロヒトが演じていた/演じざるを得なかった現人神(=太陽?)としての昭和天皇の姿を、人物そのものの造形ではなくて「関係(侍従との関係、マッカーサーとの関係、皇后との関係等・・・)」として捉えただけでなく、退避壕を中心としたほとんどが室内で構成された場面、あるいは妄想や窓越しからしか見る事の出来ない焼け跡の東京までもが昭和天皇の中に包含されるような世界として構成するそのやり方が見事であり、ラスト、佐野史朗の一言を聞き沈黙するヒロヒトを、桃井かおりが手を引っ張って部屋から出て行くシーンによって唐突に映画を終わらせることで、閉じられた世界にわずかな裂け目が作られた(それがエンドロールのあの白い鳥なのか?)。これは必見です。「あっそ。」と言われたらそれまでですが・・・(笑)[映画館(字幕)] 9点(2006-08-20 19:33:21)(良:2票)

47.  暗殺者のメロディ 赤狩りによって国外へ逃亡し、その後一度もアメリカへ戻らずに生涯を終えたジョセフ・ロージーが、裏切られた革命家レフ・トロツキーの最期を描くというフレーム外の凄みに対抗するように、豪華出演陣の熱演およびメキシコの鈍い大気がフレーム内でひしめいている。体感温度がどんどん上昇していく感じ。アラン・ドロン以上の存在感を出したトロツキー役のリチャード・バートンが良かったのはもちろんだが、妻役の人がこの映画では特に良かったように思う。トロツキーが自宅で自らの声明を録音している時に突然窓が開き、庭の風景と共にその窓を開けた妻が現れ、トロツキーは続けて妻への愛情を録音するという、おそらくこの映画で最も美しいシーンでも、慎ましやかに登場しながら笑顔で静かに画面から去っていくのだが、革命家の妻であるということへの絶望を背負いながらもそんな素振りを少しも見せずに良き妻であり続けるという姿勢が見事に表れていると思った。闘牛の衝撃的な死に様と政治状況を重ね合わせるような骨太演出もさることながら、上記で挙げたような繊細さや、他にもアラン・ドロンとロミー・シュナイダーが船の上で戯れるシーンの瑞々しさ等、本作は映画の誘惑で溢れており、アナーキスト:トロツキーの映画としてよりもむしろシネアスト:ジョセフ・ロージーの映画として見ることで記憶されるべき映画なんだろうと思う。[DVD(字幕)] 9点(2006-08-20 03:10:50)

48.  キングス&クイーン ムーンリバーの調べに乗って、ゆったりした色調のパリの街並みが流れる。何だかいい感じである。というかちょっと泣ける。カメラは一台のタクシーに近づき、タクシーはそのままゆっくりと停車する。ドアが開き、お約束といわんばかりに車内からスッと出てくる女性の足を、そして顔を捉える・・・ここで「あき竹城」というキーワードが不意に出てしまうと、その後の約150分は大変だろう。というのもこの映画は、あき竹・・・もといエマニュエル・ドゥヴォスという女優の存在に賭けたところが非常に大きく、この、一度見たら忘れられない女優にどう接するかは結構重要なポイントであるような気がするからで、というのも自分はヒッチコックの「めまい」は非常に好きなのだが、どうもキム・ノヴァクが苦手で、なんだかとても損をしている感じがするのである。まあそれはそれとして、この映画はかなり良く出来ており、その面白さは保証できる。一発の忘れがたいショットとか、緊張感の持続を強いるような強度があるわけではないが、登場人物の一人一人のバックグラウンドを緻密に構成し、それらを適切な場所へ配置させることで、とんでもなく複雑な関係を生じさせる。まさに人間ドラマの坩堝。しかし、それだけでは説明できない歪みがさらにあるようにも思う。それは、この映画が方法として非常に意識された映画であり、その根底としてアメリカ映画という偉大な方法が乗っかってるからかもしれない。そしてそれを、自然発生というより自然発生の人工による再現で、普通の映画として偽装しているというか、要するに凄く複雑なロジックがこの監督の頭の中には蠢いている様に感じられ、もっとシンプルにしちゃえばいいのに、と思うのだが。[映画館(字幕)] 8点(2006-08-07 20:44:17)(良:2票)

49.  ラルジャン 魂消ちゃいました。[映画館(字幕)] 10点(2006-08-04 19:18:01)(笑:1票)

50.  夜よ、こんにちは 《ネタバレ》 とにかく巧い。冒頭、夫婦を装って住宅を購入し、首相を拉致監禁するまでの展開を、全て室内で進行させるのだが、隣近所の訪問、窓越しの視線、テレビの映像、縦横無尽の音響、これらが住宅の一室を映画空間に一変させる。狭い空間に張り巡らされた無数の「映画トラップ」とでも言うべきか。ベロッキオは、この映画の背景であるモロ首相誘拐殺人事件や赤い旅団に対する言及を前面には出さず、テロリスト達と首相の関係をたくみに変位させながら、ジワジワと観客の外堀を埋めていく。そのベースとなるのは映画全体に通底する一種の通俗性(普遍性)で、主人公キアラの、テロリストととしての自分と、首相の思想に傾きそうになる自分との葛藤が、非常に分かりやすい構図で描かれる。さらに姿を見せない赤い旅団やイタリア政府の冷徹さ、あるいは唐突なローマ法王の登場。サスペンスの中に潜むホラー的とも言うべき彼ら怪物的人間の不気味さにより物語は複相化する。そして気がつけばベロッキオの攻勢は内堀にまで及んでいる事が、シューベルトの音楽と共に明らかになり、もはや防御は不可能。キアラの願望は次第に現実を帯び、後半以降、もの凄い事になる。ラスト、首相の笑顔、解放、その後にやってくるテレビ映像、そしてピンクフロイド!要は、この映画は圧倒的にカッコイイのである。ディ・モールト(非常に)良しッ![映画館(字幕)] 9点(2006-07-26 14:59:57)(良:2票)

51.  M:i:III 《ネタバレ》 ま、フツーに面白かったけど、ほぼ最前列で見たせいかクローズアップの切り返し主体の構成に圧迫されて暑苦しかった。しかもカメラは動きまくるし、それがトニー・スコットみたいに的確じゃないのもつらい。で、オチはラビットフットですか・・・最後にフィッシュバーンとあんな微妙な和解シーン撮らないで、妻が「何で中国にいるの」って質問した時に「ハネムーンさ」とか何とか言って強引に終わらせてもよかったかも。基本的に金掛けたシーン以外は印象にないけれど、中国編のトムダッシュはかなり良かった。確かに、こんだけ映画の中で走れる人はそういない。あと、高層ビルを窓にチョークで縁取るところは上手いと思った。あそこでトムが右隅に書いてた計算式は、振り子の物理運動を計算してるんだろうか。実践段階では理論以上に運が勝ってたようだったが。あと、護送車の壁を溶かすあのシュワシュワする液体、あれで脆くなった壁がパリッと割れるのが面白かった。[映画館(字幕)] 8点(2006-07-22 22:27:44)

52.  たそがれの女心 初めっから終わりまで震えっぱなし。自分の映画監督ランキングに、オフュルスが物凄い勢いで、しかし足音を立てずエレガントに迫ってきたのを感じた。パーティーでダンスするシーンが印象的で素晴らしいのだが、この映画は言ってみれば初めっから終わりまで全てがダンス。カメラも踊る。それらを操るのが女性映画の巨匠マックス・オフュルス。女性映画の巨匠っていうのはどいつもこいつも凄い。そもそも女優をいかに撮るかという事が映画の出来を左右するのだから、女性映画の巨匠が一番最強だろう。だからもちろん成瀬巳喜男も最強だが、オフュルスも同時に最強であり、つまり「たそがれの女心」はそういう映画であると言える。中身も何も無いレビューですが、観れば分かる。最強の映画とは、いつも言葉に先立つので何も書く事が無い。ただ見る事、体験する事、これだけです。[映画館(字幕)] 10点(2006-07-11 18:26:19)(良:1票)

53.  少女ムシェット 《ネタバレ》 「ドリーマーズ」で一番ビックリしたシーンは、「少女ムシェット」を引用した部分だった。その映画が「少女ムシェット」という映画だったと知らなかったので、調べてレンタル屋へ行ったら置いてなくて、どうやらセルDVDとしてしか存在しないみたいだったので財政は苦しかったが買った。それ以降ブレッソンという監督の名前が頭の中にこびりついて離れない様になってしまった。ゴロゴロゴロゴロ・・・失敗、もう一回。ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ・・・バシャーッ!つらい。なんでつらいかというと、彼女の自殺は回転運動の結果でしかなく、回転による衣服の擦り切れや、彼女が落下する事で生じる川の波紋のような物理的なものと変わらなく感じるからである。全編がこのノリで、ムシェットの薄幸ぶりが無機質的に描かれる。それゆえにムシェットがバンピング・カーで遊ぶシーンは忘れがたい。軽快なBGMの中、ガコン!ガコン!とぶつかる車。これだけの事なのに何故こんなに楽しいのか。自分の映画鑑賞スタイルにブレッソン以前と以後というボーダーが出来たのは間違いない。[DVD(字幕)] 10点(2006-06-21 16:34:40)(良:2票)

54.  ベレジーナ テオ・アンゲロプロスがギリシャを曇天と黒のロングコートの国にしてしまったように、ビクトル・エリセがスペインを熱情から詩情の国にしてしまったように、ダニエル・シュミットは「ベレジーナ」でスイスの国旗の白十字を黒に上塗りした。なんていうのは大げさだし、そーやって勝手に影響を受けている自分が単なるアホなのだが、この3人が作る映画は単なる「お国映画」に留まらず、独特な視点を提示している。この点の非凡さと同時に映画としての贅沢さも持ち合わせていて、言い方はあれだが、見たあと非常に得した気分になる(で、その後に「ヨーロッパ映画ってやっぱり深いねー」みたいな感じになるとちょっとマズいわけだが)。まあ、それ以前に「ベレジーナ」は文句なしに面白く、艶のある映画だと思った。うっとりするような反復(画面に見とれて字幕を見逃してしまうほど)が繰り返されながら少しずつズレが生じてきて、そのズレが決定的になった時、スイス最後の一日が始まる。その始め方が、とんでもなくバカにされたというか、煙に巻かれたようなひっくり返しなのだけど、その後の怒涛の展開はさらにぶっ飛んでいて、最後に独立の旗がバッと開いた時が最高潮。鑑賞後の幸福感がたまらない。ハラーショってあんた・・・[映画館(字幕)] 10点(2006-06-14 18:46:19)

55.  ある子供 あんまり乗れなかった。この映画のような出来事がこの国では起こっているのだ、という主張はわかる。でも単にそれを出来事としてだけ驚愕するのなら、NHK様が作るドキュメンタリーで事足りる。それにタルデンヌ兄弟が昇華してきた擬似ドキュメンタリーの方法、つまりフィクションとドキュメントを混在させようとする考え方がそもそも疑問。そんなにこだわる割には、ラストでしっかりドラマしてるし。この映画の主題の1つとなる「子供を捨てる子供」は、本当ならもっとグロテスクなものだと思うし、さらにそういう異常な事態を日常として描く時、それは突き抜けた恐ろしさを持つ映画になり得るような気がするが、結局そういう要素はヒューマンドラマに殺され、救いに落ち着く。その結果優等生の映画の典型になってしまったように思う。[映画館(字幕)] 5点(2006-06-05 22:12:55)

56.  ポセイドン(2006) ペーターゼンというとまず「Uボート」での水難が浮かぶわけで、本作は水が隙間からプシューッと噴射したり、船内の水かさがどんどん増したりと、これは本領発揮だなーと感じた。撮影も面白くて、前半は豪華客船を豪華に見せること、転覆した豪華客船の破壊状況を豪華に見せることがメインだったが、登場人物がペンライトを携帯してからは、ボディーブローのような水の攻撃を執拗に見せる。前半の見せ方は下手かなと思うが、ペーターゼンは水を得るとやっぱり生き生きする。「Uボート」の、上昇も出来ないし下降も出来ないという葛藤(心理劇)を、「上に上に!さあ行こう」という愚直なまでの上昇(脱出劇)に置き換えた「ポセイドン」は98分という理想的な上映時間であり、これに人間ドラマを入れちゃうと180分の「タイタニック」が出来上がってしまう気がする(タイタニックがドラマとして優れてるかどうか知らんけど)。「上に上に!」の精神は、もっと突き上げて欲しかったところだが、「ポセイドン」はB級精神あふれる映画となった。これは面白いです。[映画館(字幕)] 7点(2006-06-04 01:42:48)(良:1票)

57.  麦秋(むぎのあき) 《ネタバレ》 超傑作。貧しい人々が集い、共同体となって農場を経営するという社会主義的な側面をもつこの映画は、大手スタジオが金を出し渋ったため結局自宅を抵当に入れて独力で作っただけでなく、発表後もその危険(?)な思想により批判を受けたらしい。この映画のどこが危険なのか、さっぱり分からないが、この映画が煙たがられるような時代は確かにあったんだろう。アメリカという国家が自由だと思ったことはないが、この偉大なアメリカ映画は限りなく自由である。ラストで、荒れた大地にぶっつかるように流れる怒涛の水があなた、ほんとに凄いんですから。まさに人間賛歌、大地讚頌。ぜひいつかスクリーンで観てみたい。[ビデオ(字幕)] 10点(2006-05-30 20:51:00)

58.  ミュンヘン 実に暗くて冷たくて重たい映画だった。9.11が世界と映画のあいだにもたらしている歪みと、スピルバーグの内なる悪意(というか、なんか黒いもの)の肥大化が、20年以上前に起こったショッキングな事件をさらに不気味なものへとチューニングしてしまったような、そんな感じ。でもだからといって映画がグニャリとしているわけではなくて、映画自体は非常に洗練されているので見ごたえは十分。罪悪感ではない、エネルギーの消費としての殺人の重量みたいなものを感じられる映画だと思う。その最たる場面が、誰の印象にも残るであろうオランダ女の登場する部分。彼女の存在感はそのまま死を喚起させる。確か、彼女がらみで直接ではなくても仲間の3人が死んだはず。それが事実に基づくか基づかないかは置いても、イメージの喚起力が現実を凌駕してしまうような凄みがここにはあった。それにしても「映画のような」という形容詞すらついたあの同時多発テロだが、映画はこのミュンヘンのラストのように再びタワーを甦らせる事だって出来るということを忘れてはいけないと思う。[映画館(字幕)] 9点(2006-05-17 12:56:39)

59.  エルミタージュ幻想 《ネタバレ》 舞踏会はやがて終わりを迎え、紳士貴婦人が無数の人だかりとなって帰り路につく。画面は彼らの無数の顔から表情を拾うが、明るい顔付きの者は一人としていない。豪華な衣装や巨大な宮殿とは裏腹の憂鬱が、彼らのこれまた無数のささやきと共振して映画を観る人々に「もうすぐ映画も終わりだよ」と告げているみたい。事実、カメラはそのまま出口へと進み、ぼやけた海の前で立ち止まり、監督自身の呟きと共に幕を閉じる。しかしその声は、「終わりはない」「私たちは永遠に生き続ける」と小さいながらはっきりと呟く。ソクーロフの映画はいつも締め方がいい。エルミタージュ美術館が保存してきた空間と時間のアーカイブを一呼吸で切り取ってしまおうという大胆な方法にア然としながらも、この縦軸横軸をシェイクした迷宮に映画という斜めの軸をぶちまける思い切りのよさにしびれる。芸術としての高みよりも映画としての高みを感じるこの映画は、「チャーリーとチョコレート工場」の夢の工場を探索するように見られるべきだと思う。もちろん豪華さ、案内人(このオッサンがとにかく最高)の魅力ともに「エルミタージュ幻想」が勝るのは言うまでもない。[映画館(字幕)] 9点(2006-05-16 12:29:32)

60.  真田風雲録 《ネタバレ》 佐助に惚れたお霧が決めた覚悟と、それに対して笑えるぐらいに絶望的な突き放し(千姫に「要は、捨てられちゃったってこと」とまで言われる始末・・・)のこの落差は何?あるいは「勇ましく死のう!」と声高らかに歌い踊る熱狂に対して、真田幸村、大野治長が見せる余りにもコミカルな死に様。でもこの映画に限らず、加藤泰の作品はとにかく感情が動く。しかも常にトップギアのテンションで。感情の変曲点でいちいち対応できない。スピードが速いんじゃなくトルクが凄いのが加藤泰(意味不明)。優しさと厳しさと激情が同居する(「いとしさと切なさと心強さ」じゃ全然足りん)加藤泰の映画はいつだって真剣勝負。ラストは「パリ、テキサス」もビックリの草原を一人で歩く中村錦之助。参りました、としか言いようがない。[映画館(邦画)] 9点(2006-05-12 12:29:42)(良:2票)

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