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街の灯(1931) - 目隠シストさんのレビュー
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Web www.jtnews.jp

タイトル名 街の灯(1931)
レビュワー 目隠シストさん
点数 9点
投稿日時 2006-11-17 21:03:43
変更日時 2006-11-17 21:09:57
レビュー内容
特筆すべきはヒロインの魅力のなさです。容姿もさることながら(失礼)、その性格も良いとは言えません。こういった設定でありがちな、見目麗しく、性格も素晴らしい、まるで仏様のような(キリスト教圏だからマリア様かな)非の打ち所の無い女性ではありません。彼女は、家賃が払えないと、まるで乞うかのようにさめざめと泣き、眼の手術代までさほど遠慮せず受け取ります。目が見えるようになってからは、「私を好きみたい」と上から目線の調子に乗った発言までします。ただ、これらは性格が悪いとまではいえません。チャップリンが大金持ちだと思えば、金銭的に甘えるのはある意味当然です。貧しい彼女の生きる術でもあります。重要なのは、彼女は何処にでもいる“ごく普通の人間”であるということです。このことが、珠玉のラストで活きてきます。真実を知り戸惑う彼女。微笑むチャップリン。2人のこの後を見せようとしないエンディングは「これ以上何も語る必要が無い」ことを示しています。みなまで語るな。もう十分だと。観客から“この後の成り行きを想像する楽しみ”まで奪うかのような唐突さがあります。この時のチャップリンの心情は察するに余りある。手術が成功したことに対する喜び、自分がもう必要でないことを知った寂しさ、彼女の戸惑う表情を見て感じたであろう悲しみ、やり切れなく観客の胸をえぐります。決してハッピーエンドではありません。しかし、チャップリン本人はこれをハッピーエンドと捉えているのです。チャップリンの静かな笑顔が、いっそう観客の胸を締め付けます。絵空事のお涙頂戴話になっていないのは本作に泥臭い人間味が垣間見られるからです。それはヒロインだけでなくチャップリンにも言えます。彼女に手術代を渡す前、一瞬自分の取り分を確保する抜け目なさ。そしてラスト。自分の正体を明かさないという選択もあったのに、チャップリンは自分の正体を明かします。自分があなたの恩人なんだよと。ある意味、粋ではありません。でも明かさずにはいられない。それが人間です。作り物ではない“心”が見えるから本作は傑作なのだと思います。
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