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タイトル名 |
穴(1960) |
レビュワー |
よしのぶさん |
点数 |
7点 |
投稿日時 |
2012-07-18 06:46:34 |
変更日時 |
2012-07-18 06:46:34 |
レビュー内容 |
物語は単純。5人の囚人が脱獄の穴を掘り続けるというもの。メインの脱獄方法こそ鉄棒でコンクリートを穿つという力技だが、棒の先に鏡をつけた覗き鏡、薬瓶を合わせた砂時計、組立て作業の箱の残りを使った人形、肩車で狭い柱の陰に隠れて監視の目を逃れる、マッチ棒を挟んで切断した鉄棒を元に戻しておく等、リアリティのあるアイデアに引き込まれる。差し入れ品を細かく検査する場面を見せることで厳しく監視された監獄であることを示すなど演出の妙がある。脱獄を”魅せる”という点では申し分のない出来。心理劇としてはどうか。古参の4人は一枚岩。そこへ未決囚の新人が入ってくる。信じて打ち明けるか、延期するか。信用できると踏んで打ち明けるが、疑心暗鬼の状態は続く。このあたりの描写はあっさり。4人の過去が語られず、緊急切実した事情があるわけでもないので、心理劇としては薄味。ただ4人の個性はきちんと描かれる。後半になると変化が現れる。古参の一人が脱獄しないと言い出す。理由は重篤の母親がおり、自分が脱獄すると警察に事情聴取され、動揺して鬼籍に入るかもしれないから。以前には思い至らなかった事が、脱獄がいよいよ現実味を帯びた時点で思い至り、よくよく考えた末の結論。リアリズムがある。男は落盤に遭いながらも自分の担当分の仕事はきちんと果たす。脱獄幇助罪で罰を受けるのも覚悟の上だ。最も男気を見せる人物だが、男は普段エロいことばかり話題にする人物として描かれ、感情移入しにくいきらいがある。新人の立場はどうか。普通、未決囚は脱獄はしない。容疑も妻への予謀殺人未遂罪で、殺人ではない。それでも重罰が下ると予見して脱獄参加を決意するが、そこへ妻が告訴を取り下げるという意外な展開。あとは釈放に判事の署名を待つだけだが、同房の連中が脱獄してしまうと、脱獄幇助の罪がかかる。仲間を売るか、自由を不意にするかのジレンマに陥る。新人はかつて脱獄を「実に胸のすく思いだよ」と洩らしていた。だから観客は新人が裏切るとは思っていない。そこへ意表をつく結末。そこで「穴」というタイトルには二重の意味があったことが分る。「脱獄の穴」と「落とし穴」。また所長が妙に優しくする場面がいくつか出てきた理由も氷解する。物語としては巧みだが、人間劇として物足りなさが残る。新人や4人の苦悩がさほど伝わらないからだ。余談だが、あんな音を立てれば隣が絶対気づくと思う。 |
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