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タイトル名 |
スペードの女王 |
レビュワー |
かっぱ堰さん |
点数 |
7点 |
投稿日時 |
2025-04-12 19:57:47 |
変更日時 |
2025-04-12 19:57:47 |
レビュー内容 |
19世紀のプーシキンの短編小説、及びそれを原作としたチャイコフスキー作曲の歌劇をもとに制作された映画である。歌劇のように死人を増やして大仰な悲劇にしたりせず、晴れやかな終幕にしたのは好印象だった。 主な3人以外の登場人物は変えられていて、序盤でゲルマンに妙な話を吹き込んだのは友人ではなく古本(なぜか英語版)ということになっている。また歌劇のゲルマンには恋する男と金の亡者の二面があったのを分割し、前者をアンドレイ・ナルーモフ公爵という別人格にして歌劇のエレツキー公爵と兼ねさせたことで、善玉と悪玉をわかりやすく整理したように見える。 本来の主人公だったゲルマンは悪玉専業なので特に共感できるものはなく、一方でリザヴェータ・イヴァノヴナが実質的な主人公に見える。原作にない「鳥の市場」の場面は、この人の境遇を端的に表現するものとして効果的だった。中間点あたりで、この人を間に置いて善玉悪玉が対峙する構図が決定的になったので、これでもうこの人も安心だと先読みできた。 また伯爵夫人の人物像もかなり原作に沿った表現になっていて面白い(横暴)。コメディ要素も結構あり、叔母を頼って伯爵夫人に取り入ろうとした男が、高齢で記憶が確かでない人物に対し馬鹿正直に本当のことを言って叔母に怒られていたのは笑った。ここも原作にある要素を発展させた形になっている。 ほか後半にはなかなかホラーっぽい場面もある。死者の目が強調されていたのと、床に裾の擦れる音で人物が表現されていたのが特徴的だった。
物語としては、カードに関わる呪術のようなものが本当にあったわけではなく、単にゲルマンの頭が変になっただけと思っても通る話ができている。怪しげな古本のCountess R***が、実在の「ラニエフスカヤ夫人」だといきなり思い込むことからして頭が大丈夫かと思わせるが、実際にはその伯爵夫人をはじめ、本にあった3枚のカードのことを知っていたとわかる人物は誰もいなかった。1746年の場面は事実というより本のイメージ映像と思うことにすれば、要は終始ゲルマンの独り相撲だったことになり、オカルトでなく現実寄りの真面目な映画だったと取れる。 結末に関しては、原作の淡々とした後日談も感慨深かったが、個人的にはリザヴェータが幸せになるかが気になっていたので、この映画もかなり喜ばしいラストになっている。「鳥の市場」がこういう形で最後につながったのは正直感動的だった。 |
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