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タイトル名 |
ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド |
レビュワー |
ゆきさん |
点数 |
7点 |
投稿日時 |
2022-11-24 07:56:40 |
変更日時 |
2022-11-24 13:43:47 |
レビュー内容 |
実際に起きた悲劇をハッピーエンドに変えた映画としては「ザ・チェイス」(1994年)などの先例がありましたが、そういったジャンルの決定版とも言うべき品ですね。
何せ(これは、あの事件が元ネタなのでは?)と観客に想像させるだけでなく、思いっ切り「シャロン・テート」って人名を出しているんだから、恐れ入ります。 現実では悲痛な死を遂げた彼女を、映画の中で救ってみせた形であり、そんな「優しい作り話」を、元ネタを知らない観客でも楽しめるように仕上げてるんだから、本当に見事でした。 上述の通り「シャロン・テート」という存在ありきの内容ではあるんですが、この映画って「主人公のリックとクリフ、二人の友情の物語」としても、綺麗に成立しているんですよね。 離れ離れになってしまうかと思われた二人が「これからも、ずっと一緒だ」「友情は不滅だ」と感じさせる結末を迎えてくれるんだから、もう嬉しくって仕方無い。 作中で「兄弟以上、夫婦未満」なんて言葉が出てくるけど、事件後の描写からすると、この二人の絆は夫婦以上としか思えなかったくらいです。
……で、ココがこの映画の上手いところなんですが、そういった「友情の映画」としての側面もあるからこそ、本作は「分かる人だけが分かれば良いという、独り善がりな映画」ではなく「色んな人が楽しめるような、立派な娯楽映画」になってるんですよね。 例の事件を知っている身であれば(良かった、シャロン・テートが殺されずに済んだ……)とホッと出来る訳だけど、知らない人からすれば、そういうカタルシスは得られ難い。 そんな弱点を補うように、誰もが理解出来る要素として「主人公二人の友情」を追加したのは、本当に上手かったと思います。 自分としては、ブラッド・ピット演じるクリフに肩入れする気持ちが強かったんですが、ディカプリオ演じるリックも魅力的だったし、二大スターの見せ場のバランスも良かったですね。 中盤でリックが見事な演技を披露し、監督や子役に称賛される場面には感動しちゃったし「落ち目の俳優が、意地を見せて業界にしがみ付く物語」としても、充分に楽しめる出来栄え。 アル・パチーノやカート・ラッセルまで出てくるし、かつての映画小僧タランティーノが「何時か、こんな映画を撮ってみたい」と夢見ていた品を、そのまま形にしたようであり、豪華な出演陣にワクワクするという以上に、ほのぼのしちゃいました。
この映画の世界では、チャールズ・マンソンが「悪のカリスマ」と持て囃される未来も訪れず「単なる犯罪者」という、至極真っ当な扱いを受けるんだろうなと思えるような、皮肉なユーモアが備わってる点も面白い。 犯人の一味が「俺は悪魔だ。悪魔の仕事をしに来た」という有名な台詞を吐いた後、クリフに倒されちゃう展開とか、実に痛快でしたからね。
ただ、ちょっとクリフが強過ぎるというか…… 敵側の戦力が少な過ぎて(こんな奴ら、リックとクリフなら返り討ちにするだろ)と展開を予想出来ちゃったのは、少し残念。 映画本編の情報だけだと、彼らが事前に殺人を犯していた事も明かされていないし、クリフ達に痛めつけられる姿が、可哀想に思えてくるのも難点ですね。 この辺りは「マンソン・ファミリーが殺されて当然の連中だって事くらい、観客は分かってるはず」という、慢心のようなものがあった気がします。 もっと分かり易く「こいつらは極悪人なんだよ」と、事前に説明しておいてくれたら、より強いカタルシスを得られたかも。
恐らくは映画オリジナルの台詞で「みんな、テレビを観て育つよね」「アイ・ラブ・ルーシー以外、全部殺人の話だよ」「殺しを教えた連中を殺そう」っていう、犯行動機のようなものが語られているのも、興味深いものがありましたね。 そんな事を言ってた連中が、映画やドラマを作る側であるリック達に一蹴される展開な訳だし「テレビから影響を受けて人を殺した」と主張するような輩に「馬鹿言ってんじゃねぇよ」と、作り手側がメッセージを送ってるようにも思えました。
そんな具合に、シンプルに観ても面白いし、色々深読みしても楽しいという、贅沢な一本。 「シャロン・テート事件を扱った映画の中で、一番好き」「昔の作品をパロってみせてる、オタク気質な部分が好き」「男二人の友情映画として、凄く好き」って感じに、色んな観客の、色んな形の「好き」を受け入れてくれそうな…… 懐の広い映画でありました。 |
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