6.《ネタバレ》 尋常ではなくグロイです。残酷描写には比較的慣れている方なのですが、それでもこれはキツかった。オスカーを受賞した特殊メイクの威力はもちろんのこと、クローネンバーグのグロを見せる才能が本当に凄い。本作と同様の技術を使用した「Ⅱ」と比較すると、監督の手腕がいかに卓越したものであるかがわかります。実験失敗で皮膚がひっくり返ったヒヒや、腕相撲で腕をへし折られるおっさん、出産シーンの巨大ウジ虫等々、そのタイミングの絶妙なこと。来るぞ、来るぞ、と引きつけておいて、ドカンとえらいものを見せる抜群の間。クローネンバーグの手を離れた「Ⅱ」には、残念ながらこれほどのインパクトはありません。また、本作はクリーチャーの描き方も卓越していて、作りもの丸出しなのにキャラクターとしての生命を宿している辺りも演出の妙です。これまた「Ⅱ」のクリーチャーはやたらショボいです。やはり映画は技術ではなく演出なんだなぁと思い知らされました。 本作の脚本はかなり斬新で、オリジナルの『蝿男の恐怖』がただのモンスター映画だったのに対し、本作はモンスターへの変貌の過程を中心に持ってくるという、他に類を見ない構成となっています。しかもメインのテーマは男女の愛情。蝿男の映画を作れと言われて、こんな話を考えてしまうのは世界中でクローネンバーグぐらいでしょう。また50年代のB級ホラーを原作としながらも、科学的にそれらしく感じさせる工夫が多くなされていることにも感心します。無機物の転送はできるが、有機物についてはその構造をうまく理解できず、混乱したコンピューターが蝿と人間の遺伝子を混ぜてしまったという設定は、なかなか上手く考えたものです。サイエンスとフィクションがうまく組み合わされた、見事なSF的発想ではないでしょうか。ハエの生態に近づいていくセスの描写も科学考証を踏まえたものですが、爪が剥がれ、歯が抜け落ち、消化液を吐き出して物を食べるようになるという設定など、本当に細かく考えられています。こうして細かい描写を積み重ねつつも、クライマックスではセスの顔が一気に剥がれ落ち、ブランドル蝿の完全体が現れるという怒涛の展開。この辺りのテンポの作り方も絶妙で、映画的興奮が宿っています。本当にこの人は映画作りがうまいものです。
【2018/6/24追記】 あらためて見返しましたが、やっぱりグロくて感動的。これほど感情表現豊かなホラー映画はその後20年以上経っても類がなく、驚異的な傑作だと思います。 また、今回の鑑賞では2時間に及ぶメイキングも含めてがっつり鑑賞したのですが、クローネンバーグのみならず大勢の関係者が正しい選択をしながら生み出した傑作であることがよくわかりました。未公開シーンを見れば顕著なのですが、実は未使用フッテージが結構ある作品なのです。例えば、生存の方法を探るブランドルがヒヒと猫を使った実験をし、両者が醜く融合したクリーチャーを生み出す場面などは演技的にも視覚効果的にもかなり手が込んでいるのですが、観客がブランドルへの反感を抱きかねないとして完成版からはバッサリ落とされています。同様に、生存したベロニカのお腹にいる胎児はモンスターではないことを暗示する場面も手の込んだ視覚効果を用いて撮影されていたのですが、こちらも同様に削除されています。本筋とは無関係な描写や、キャラクターの個性を誤解させる可能性のある場面はカットし、シンプルに徹した作風が勝因となっているのです。 また、ベロニカ役のジーナ・デイビスに相当な負荷のかかっていた現場でもあったようです。誤作動も多いパペットを用いた撮影にはとにかく時間がかかり、クライマックスの撮影には2週間を要したのですが、泣き叫ぶ演技をしなければならないジーナ・デイビスはその2週間、ずっと泣いていなければならないというかなり過酷な状況を強いられていました。パペットが思い通りに動いた瞬間に「はいジーナ、今泣いて」と言われるような無茶な指示が出ていたこともメイキングには収められており、この完成度の裏側にはキャストとスタッフの並々ならぬ苦労があったことがよくわかりました。 【ザ・チャンバラ】さん [ブルーレイ(吹替)] 8点(2010-02-13 20:23:54) (良:3票) |
5.変態だね! 【k】さん 8点(2004-02-09 16:31:13) (良:1票)(笑:2票) |
4.《ネタバレ》 悶絶気色悪映画の古典的名作。もう自分がじわじわと少しずつ蝿になっていく恐怖といったら考えるだに恐ろしい。そんなおぞましい世界を当時のSFX技術の粋を極めて創りあげた、徹底的にグロテスクで気持ち悪い映像はCG全盛のいま見てもなんら見劣りしないから凄い。逆に、こちらのほうが生々しくて迫力があるくらい。あと、主人公を演じたジェフ・ゴールドブラムの顔が濃すぎて人間の段階ですでにちょっと怖いんですけど(笑)。でも、やっぱりこの映画の最大の見所は、最後、もうどうしようもなくなってしまった主人公が恋人に死を願うシーンの哀れさだろう。こんなグロい映画なのに最後はちょっぴり切ないなんて……。人間ドラマとしても胸に残る名作です。 【かたゆき】さん [DVD(字幕)] 8点(2013-04-21 17:28:52) (良:2票) |
3.《ネタバレ》 チーズバーガー! - The Fly - “蝿” 当時の体液ネバネバ・ドロドロのホラーSFの代表作。私の同年代は殆ど知ってるんじゃないかなぁ?ブランドル蝿って名前。ギョロッとした目がインパクトあって、でも『台詞のある脇役』って印象のジェフ・ゴールドブラムが、いよいよ主人公として登場だ。最終形態のブランドル蝿より、生ブランドルの方がインパクトが強いと言っても過言ではない。 そしてこれまた大きな目と大きな口が印象的なジーナ・デイビスがヒロインときた。しかも初対面の怪しい科学者の家でストッキング脱いで渡す変わり者。そりゃ変な虫(スタティス)にストーカーされるわ。
95分の短さで、とてもわかり易く、無駄のないサクサク展開。メインの人物はたった3人。物語も大半が研究室。生きたヒヒが裏返る気持ち悪さと謎。謎の解明にステーキ肉を入れてみる発想。彼らと一緒に謎解きをするようでワクワクする。ホント暇つぶしに観るのに丁度良い長さだから、深夜たまたま放送してたりすると、ついつい最後まで観ちゃうんだよなぁ。 乗り物酔いするブランドルがテレポッドを開発するってのは洒落が効いてるし、最初にチラッと出てきたプロトタイプ・テレポッドも、最後3人合体の場で活躍するし、ストーカーのスタティスまでヒーローみたいに活躍してしまう。
蠅男も完成形より過程状態が怖い。早口で捲し立ててコーヒーに砂糖ガバガバ入れるトコとか、見た目普通なのに怖い。爪が剥がれて白い体液がプチュって吹き出るの怖い。でも一番怖いのはベロニカが巨大な蛆虫を生むシーン。そのクネクネする尾が糸引いてるのが怖い。クローネンバーグ監督のセンスが光る。 チーズバーガー! 【K&K】さん [ビデオ(字幕)] 8点(2022-10-21 22:06:04) (良:1票) |
2.《ネタバレ》 グロくて気色悪くて、そして哀しい。あまりといえばあまりに酷い、愛が引き裂かれるお話。 余計な枝葉を落として、時間の経過とともに科学者の異変が加速する描写に絞り、ダイナミズム溢れるストーリー展開とG・デイビスの泣き顔。色白の肌に目も鼻も唇も赤くして衝撃と混乱に耐える表情。とても美しいと思った。いくら好きでも見た目が生理的に耐え難く変容したら、自分の心にすら手の施しようが無いだろう。なにしろハエに移行するその姿のおぞましさといったら当時の映像技術に賛辞すら送りたくなるほどだ。耳がぼろん、と取れる場面は失神もの。 しまいにはポッドと融合した化け物を撃ち、崩れ落ちるジーナ。肉片と血しぶきを悲恋にまぶすとは、もうさすがクローネンバーグ。 【tottoko】さん [ビデオ(字幕)] 8点(2014-08-26 00:25:50) (良:1票) |
1.まだ中学生だった頃に観たこともあって、当時の自分には絵的なグロさの面でインパクト大でした。思い入れがある分どうしても高評価になってしまいますが、実際、SF映画史に残る佳作であることは間違いないと思います。ただ、この特殊メイクですが、ハエというよりもゾンビ化してますな(笑)。しかしよりによってハエとは気の毒。せめてバッタだったら仮面ライダーになれたかもしれないのに。んなわけないか。 【(^o^)y-~~~】さん [DVD(字幕)] 8点(2007-02-06 00:14:51) (笑:1票) |