《改行表示》 8.《ネタバレ》 「確かに面白いことは面白いけど、ナンバーワンに挙げられるかと言えば、答えはノーだ。」この映画を見た人のほとんどがこんな感じの意見だと思う。けど、自分にとっては間違いなくナンバーワンの映画だ。この映画全体に流れる微妙なコメディ感・独特の緊張感がたまらなく気に入ってしまったのだ。死体がある場所を先に知らせる意義についてだが、先に知らせることによってこそこの映画の面白さが成り立つのである。これは間違いなくそう断言できる。死体を先に見せ、その隠し場所を観客に見せることにより、あたかも我々があのパーティ会場の壁の隙間からこっそりと覗き見をしているかのような錯覚を持たされてしまうのである。さらに言えば、先に死体の置き場所を知らせることによって、その後の登場人物同士の会話の全てが意味のある会話になってくるのだ。 そのおかげでこの映画には中弛みのポイントが全く存在せず、終始一貫して緊張感を醸し出すことに成功している。この映画が素晴らしいのは極端な長回しによる緊張感溢れる撮影方法よりもワンシーンで全てストーリーが進んでいくシナリオよりも何よりも脚本が優れているからなのだ。つまり、この映画の面白さはパーティに招かれた人たちが犯人たちの愚業を如何に暴くかなどということではなく、パーティに招かれた人たちの決して故意的ではない(←ここがポイント)何気ない言葉によってフィリップが心理的に追い詰められて顔が青ざめていくところ、そして、ブラントンが幾多ものピンチを機転を利かせて巧妙に難逃れをするところにあるのだ。従って、この映画では登場人物の誰かに感情移入をしてしまうと全く面白みのない映画となってしまうので、登場人物たちと一定の距離をおいて客観的に見るべきである。また、可能な限りカット割を入れず(背中にカメラを近づけてカットするところはともかく、会話の間でカットを入れるところは凄くナチュラルでいい!)長回しで撮ることによって現場の緊張感を高め、さらに、背景を時間の進行とリンクさせているところも注目である。 「ハリーの災難」でもそうだが、人間の死というものをここまでコメディタッチに描くことのできるヒッチコックにはただただ舌を巻くばかりである。 【もっつぁれら】さん 10点(2004-06-03 18:59:34) (良:3票) |
7.《ネタバレ》 ヒッチコックの実験的試みが有名な作品で、この映画はストーリーそのものは弱い。さほど面白味のあるストーリーではない。しかし、ヒッチコックのカメラ視線、密室劇としての面白さ、緊張感を見せる演出力の上手さに感心させられる。まず何よりも一つ一つの配置、小道具の使い方、更には窓の外の景色の移り変わりの凄さ、最初で殺人シーンを見せることで観る側はこの殺人犯、今作で言えば二人の男、方や気の強い男で堂々としている男ともう一人は常におどおどして落ちつかない男、性格の違う二人を用意することで犯罪がいつばれるのか?というものを見せてくれる。パーティーに招かれた人たちの行動も犯人を慌てさせようとしたり、とにかく色んな意味で計算されている。家政婦と被害者の恋人の会話の中にヒッチコック映画の出演者の名前が出てきたりとヒッチコックファンにはたまらない会話を見せてくれているのもヒッチコックならではのファンサービスとてし楽しむことができる。フィリップがピアノを弾いてる時に犯罪に使われた道具と同じロープで縛られた本を見せる所の何と言う恐ろしい演出、恐ろしいと言えば犯人二人とジェームズ・スチュアート演じる教授の三人だけの場面、観客側の方へと正面を向く教授、その後ろで何かやるんじゃないかな?あの酒にも毒でも入れられてるんじゃないか?とか怯えさせるヒッチコック演出、壁に貼られた絵の不気味さも印象に残る。こういう細かい所にまで気をくばるヒッチコックの上手さ、凄さを堪能し、ストーリーなどこの際、どうでも良いと思えてしまうのである。こういう作品を見せるヒッチコック作品を観ると最近の派手なだけの作品、凄い映像にうるさい音楽垂れ流しのハリウッド大作がどれもこれも駄作にしか思えなくなります。凄い特撮なんて映画には不要であるとまるでヒッチコック自身が笑っているようでもある。いやはや、恐るべし!ヒッチコック魔術!ヒッチコックが今、生きてたら特撮なんて無くても面白い映画を沢山、見せてくれるだろう! 【青観】さん [ビデオ(字幕)] 8点(2009-05-02 20:31:33) (良:2票) |
6.ヒッチコックには珍しい舞台劇のような作品です。フィルム一巻10分をフルに利用した長回しを採用、つなぎ目を不自然に感じさせないよう、箱の影や人物の背中で画面を覆うシーンが挿入されているわけですが、これによって定期的に画面が暗転し、陰鬱な緊張感を持続することに成功しています。さて、そんな『ロープ』は傑作なのでしょうか。私はこの作品の持っている空気や緊張感、ユーモアがとても好きなのですけれど、冷静に考えて、10点をあげることは出来ません。というのは、舞台演劇を意識しすぎた作りだからです。監督のイメージにはまず舞台演劇があって、それを再現するために、映画としてどうするか、という考え方をしている。本作の映画としての可能性は、すべて舞台演劇に近づける方に開いています。実際に自分が惹かれた部分は、舞台で再現可能な箇所ばかりです。「じゃあ最初から舞台でやればいいんじゃない?」という問いをどう返すでしょう。予定調和に終わるラストはその象徴です。本作は舞台を意識するあまり、舞台の制約から逃れることも出来てないのです。従って『ロープ』は、「映画で舞台をやってみました」という実験作であり、映画としての新しい飛躍を内に秘めていません。この部分があったら文句なしの10点です。私はそのくらいこの『ロープ』が大好きです。 【円盤人】さん 8点(2004-08-28 01:50:56) (良:2票) |
5.全編を通してワンロールをノーカットで回し続けるという、様式がまず最初にありきの作品ですが、「試み」として非常に面白く、とても好きな作品です。二人組の青年が友人を殺害するという事件は実話からヒントを得ており、結末はかなり早い段階で解るような設定で、ドラマとしては彼等が立てた計画が崩れていく過程のみを追うシンプルなもの。片面空きのセットが一つで、まさに舞台劇の様相を呈していますが、ワンロールをワンカットで撮るなら、この設定しかないでしょう。映画を映画たらしめるモンタージュも放棄して、唯一、キャメラのフレームワークのみで観客の視点を誘導して行き、嘘をついたり隠し事をしている時の「あの気持ち」をいっしょに体験させようとします。カットを割ればもう少しさり気ない視点の誘導が出来たと思いますが、ここ観て!あそこ観て!という、ちょっと押し付けがましい感じがするのはやむを得ません。そもそも、この映画では最初からカットを入れないという決まりで創っているのですから、自ずと限界があるのは明らかでしょう。この場合の「試み」は、すなわち「実験」というよりも、ちょっとした「遊び」ととらえても差し支えないような気がします。大胆な「試み」がもたらした制約は、他にもいろいろな歪みを生んでいるのですが、そうした犠牲云々よりも、いつの間にか、このワンロールワンカットという「遊び」を一緒になって楽しんでしまっている自分に気付きました。 【スロウボート】さん 9点(2004-01-25 22:10:46) (良:2票) |
《改行表示》 4.名作を知らずに死ぬのは勿体無いということで、ヒッチコックを見ることにしました。手始めに有名だけど見ていなかった作品から。 「ロープ」ヒッチコック作品では珍しい倒叙式、なおかつ舞台劇(シーンは室内のみ)という、会話が中心のお芝居型の作品です。殺しの動機とその後の行動心理がかなり強引なので違和感を覚える方も多いようですが、この強引な部分さえスルーできれば会話劇としてはかなり高い完成度で物語が成立しています。ヒッチコック本人は駄作だと思っているようですが、とにかくこの密室シチュエーションが非常によく出来ていて抜群に面白いのです。 ネタバレになるので詳細は省きますが、ミセス・ウィルソンさん(イディス・エヴァンソン)が手際よく後片付けしているシーンのハラハラドキドキ具合ったら!! 見つかりそうになるこのハラハラドキドキ感が夕食を食べながら小さなTVで見るには最高の塩梅で、人物表現もバランスが良く誰一人として無駄な人物が出ていません。会話にも無理がなく、見つかるかもしれないというギリギリの攻防が小さな部屋で繰り広げられる様はもう最高(笑)としか表現のしようがありません。 このドキドキ感は死体がどこにあるか知っている観客だけに与えられた特権で、同時に死体を隠した犯人たちの顔が徐々に青ざめていく流れも楽しむことができます。まさに倒叙式とワンカット風味の様式美が最大限に生かされた素晴らしい演出の賜物で、観客はもう居ても立ってもいられなくなります。ルーパート教授(ジェームズ・スチュワート)の推理をセリフで見せ切る流れも素晴らしいし、演奏家=ピアノで心情を表現できていて音楽も申し分ありません。ロープの使われ方も最高。ラストが少し説教臭いですが、今の時代の価値観で考えてはいけません。60~70年前の作品なので当時の時代背景を考えるとまあこんなもんでしょう。ほぼ文句なしの素晴らしい作品でした!これは最高! 【アラジン2014】さん [インターネット(吹替)] 9点(2023-10-05 13:21:16) (良:1票) |
3.《ネタバレ》 製作当時は一缶のフィルムで最大15分程度しか撮影できなかったので、いくら80分と短めの作品でも全編長回しで撮るのは不可能、したがって本作はあくまで“ノーカット風”と呼ぶのが正解。前半はそれなりに頑張っているけど、中盤すぎると切り返しのカットがあるうえに、明らかに編集点と判る映像もあります。まあヒッチコックは、技術的には不可能なので過去には誰も思いつかなかった全編ワンカットで撮られた映画がもし実現できるとしたらどんな風になるだろうか、という発想で実験というよりも遊び心で本作を撮ったような気がします。そうなると登場人物が少ない室内劇が題材とならざるを得ず、テーマはともかくとしても映像的には退屈な映画となってしまったわけです。そういうワンカット撮影の時間的な制約を逆手にとった、カメラが屋外を縦横無尽に動きまわるオーソン・ウェルズの『黒い罠』のオープニングが、やはりこのテクニックの最高峰となるんじゃないですかね。 肝心のストーリーですが、推理劇というか会話劇として観るとヒッチコックらしい王道だなと感じます。まるで『罪と罰』のラスコーリニコフみたいな主人公の思想は凡人には理解不能ですが、ほとんど変人の部類のひねくれたインテリであるジェームズ・スチュワートが自分たちと同種の人間だと勘違いする心理が面白い。この犯人像はモデルとなったレオポルド&ローブ事件とほぼ一緒らしいですが、現代ではこの手の人間はサイコパスと呼ばれるわけです。 この作品はヒッチコック初のカラー映画ですが、色彩設計もやはり力が入っています。劇中と実際のタイム・ランが一致していますから、窓から見える摩天楼の遠景とその背後にかかる大きな積乱雲が、鮮やかな夕焼けからマジックアワーを経て暗闇に沈んでゆく経過がとくに美しい。 【S&S】さん [CS・衛星(字幕)] 7点(2019-08-30 22:03:58) (良:1票) |
2.《ネタバレ》 むかしスクリーンで観たときは気がつかなかったが、カット割りあるのね。気がついたのは3ヶ所、もっとあったかもしれない。鶏を絞める話題でフィリップが神経質になったところで教授の疑惑顔に移るとこ、犯人らが言い合ってる背後に教授が来たところで部屋に入ってきた家政婦に移るとこ(このあと家政婦が部屋の片づけを始めるのがヒッチらしい名シーン)、カメラが無人の家具を順に眺めながら犯行の再現をし(これは舞台劇では表現できまい)ブランドンがポケットに手を忍ばせたところで教授に移るとこ。この3ヶ所ではっきりカットを替えていた。どこも緊張の場でその効果は生きてるが、どうしてもカット内でつなげられないというとこでもなく、パンやズームアップ使えば似た効果は出せそうだ。でもそれだと品はなくなるな。映画をワンカットに収めるという趣向より、どうしてもカットを割りたいところでは割る、という判断を優先したのか(単に何度撮り直してもトチる俳優がいたってだけだったりして)、気になるところ。それよりも以前には気がつかなかったことのほうに驚いた。人間、朝起きてから寝るまで毎日ワンカットで世界を見ているわけだが、もしその最中にカット割りがあったら相当びっくりするだろう。でも映像世界では「ワンカット映画」と思い込んで観てたら、けっこう気づかない。今回だってアレッと思ったあと何度か繰り返してみて(上映中の時間を左右するのは映画の神を冒涜する気がするもんだがあえて)、やっと速いパンではないと得心できた。映画って普通の視界とは全然心理的に違う心構えで観てるんだなあ、と思った。その趣向を離れたところでは、ラスト、外の正常な世界の音が流れ込んでくる効果がいい。それは犯人が軽蔑してやまなかった世界だが、それが彼らを裁きにこれからやってくるのだ。 【なんのかんの】さん [CS・衛星(字幕)] 7点(2011-07-17 12:13:44) (良:1票) |
1.くそ長い(疑似)ワンショット撮影で有名なこの作品。まるで子供が「何秒間マバタキをガマンできるか」意地になって競っているような作品ですが、ここで行われているのはそんな遊びとはまるで比較にならない大がかりな実験。スタジオ撮影の極限を目指したような、ほとんど曲芸のような作品で、その執念にはただただ恐れ入るばかりです。しかし、そりゃ映画の裏側の事情でしょ、という気もして、映画を観る立場としては、制約の多い不自然な映画、という気もしてきて、要するにこれは映画作家の自己満足じゃないのかい、という気がしてくる。もっとも、「この作品に関する限り、それは言わない約束でしょ」と言われそうですけれど。確かにこの作品、徹底した長廻しにより、独特の時間の流れがここには表現されているし、その中で繰り広げられる人間模様のモザイクの中から犯罪の痕跡が徐々に浮かび上がり、やがて「探偵役」と「犯人役」の対決へと結びついていく、という脚本の巧みさも、見事。しかしその一方で、限られた舞台という制約が、やや人間関係の描き方を肉薄にしてしまったのも否定できないかな、と。作品の創作にあたって、制約はあくまで「可能性」を示すためのものであって欲しい訳で、制約がそのまま制約と感じられてはマズいですよね・・・? という点では本作、やや制約に引きずられた面のある作品に思われます。しかし、「どーだ、これで、一般の作品でアタリマエのように用いられている“切り返し”の意義がよーくわかっただろ」と言われれば、「すみません、まだ全然わかりません、勉強します」としか答えられませんけれど。映画は本当に難しい。 【鱗歌】さん [DVD(字幕)] 6点(2010-04-19 02:45:02) (良:1票) |