6.《ネタバレ》 第一次大戦が終わり,ファシズムが台頭するまでのそのつかの間の間,飛行機は飛行機らしく,飛行機乗りはひたすら飛行機乗りらしかった。そんな時代への愛情とノスタルジーに満ち溢れた世界。宮崎監督は,少年時代に見た一枚の飛行艇の写真の記憶だけでこの作品を作り上げたそうだが,たった一枚の写真からこれだけの世界を創る彼の想像力の豊かさに驚かざるをえない。この映画は「あの飛行機を飛ばしたい」という宮崎少年の夢なのだ。ラスト近くに魔法が解けて豚が人間に戻るシーンがあるが,これはそんな夢みがちな少年が憧れる時代が終わり,これから不幸な時代に突入していくことの隠喩である。「飛べない豚はただの豚」かも知れないが,彼はもう豚ですらないのだ。何かと問題になっている牧歌的なラストも同様で,これ以降飛行機が殺人機械に成り下がっていくことへの彼なりの反対表明であると思う。また,重要なことなのに何故か見落とされがちだが,この映画では人は死なない(私の記憶では)のである。それ故,私はその後にたどった歴史の残酷さを思い,さらにそれを感じさせまいと全編牧歌的なトーンで描いた監督の心中をも察し,胸が痛くなるのだ。マッキM33(赤飛行艇)の手作りの造形美,アドリア海の美しさ,「飛行機乗り」達の爽やかさと嫌味のない男らしさといったものが存在しえた古きよき時代を,そしてそれらが失われていく哀しみを味わう作品である。 |
5.飛ばねえ豚は、ただの豚だ。 豚がこんなに格好良く見えたことはなかった。 渋いぜ豚。 格好良すぎるよ豚。 かっこいいと言うことは、こういうことなのさ。 ズボンずらしてパンツ見せて歩いてる近所の中高生、豚の方がよっぽど格好いいぞ。 【深海】さん 9点(2004-01-12 00:39:11) (良:3票) |
4.古き良き映画といった印象 イタリア女性の活気が伝わってきます ラストに関して判断が分かれるところですが あえて有耶無耶にしているところが大人っぽさを感じます
描きたいところはそこじゃなかったのでしょう
どのキャラもセリフもとても好印象でした
この監督さんでのオススメはこの作品です 【ぐりこ】さん [DVD(邦画)] 9点(2023-07-22 17:33:27) (良:1票) |
3.《ネタバレ》 ジブリでもっとも好きな映画 とにかくセリフが珠玉 ポルコのハードボイルドなダンディ振りは尋常じゃ無い 「粋」って我慢なんだなってはっきりわかる貴重な映画 債券を勧められた銀行員に「そういうことは人間同士でやんな」と吐き捨てる カッコよすぎる 唯一ポルコを昔の名前のマルコと呼ぶ熟女の方のヒロイン、マダム・ジーナが「飛行機乗りは女を桟橋の金具ぐらいにしか考えてないんでしょう!」というセリフもグッと来る この後でポルコが「飛ばない豚はただの豚だ」という超有名なセリフで切り返すが、自分はこの直前のジーナのこのセリフが好きだ そもそも今の時代に自分を金具と表現する女は存在しない、男の憧れを乗せたノスタルジックなこのセリフは抜群の破壊力 武器屋の坊主が親方に「戦争と賞金稼ぎとどう違うの?」と問うと(どっちも殺し合いでしょ。ということだろう)親方が「戦争で稼ぐ奴は悪党だが賞金稼ぎで稼げない奴は能無しだ」とほざく 戦争は嫌いといいながらも戦闘機描写や重機関銃やら弾丸やらの描写が非情にリアル ここでも「風立ちぬ」でも思った、宮崎駿の武器オタク振り 戦争は嫌いだが戦闘機や武器はカッコいいぞという気概が透けて見える とにかくシナリオの出来が神懸かっている これまで何度見直したかわからないが「さくらんぼの実る頃」を聞くとまた見たくなる傑作 【にょろぞう】さん [ブルーレイ(邦画)] 9点(2015-02-05 02:07:42) (良:1票) |
2.(1941年生まれの宮崎監督がどのように意識しているかは知りませんが)、、、、、昭和40年代のサンデー、マガジンでは、戦記物が重要なジャンルだったようです。「ちばてつや」といえば、あしたのジョーじゃなくて「紫電改のタカ」だし、あと「ゼロ戦隼人」とか「大空のちかい」とか、、、、、60,70年代って、昼下がりのラジオからは「バラ色の人生」とか「パリの空の下」とか、シャンソンが流れていた時代でした。フランス映画もしっかり健在だったし。、、、、60年から70年は、安保闘争、東大闘争の時代で、若者は髪の毛長くして、みんなで肩組んで反戦フォーク歌って、デモって、アジっていて、加藤登紀子といえば、その頃、自由と反体制を象徴する歌姫の一人でした。、、、、、そんで時がたって、会社入ってスーツ着て、毎日忙しくて、昔の仲間と酒飲むと、「南の島でのーんびりしたいよなぁ、、、、。」、、、、「紅の豚」というこの映画は、そんな思いが全て贅沢に、ふんだんに盛り込まれています。、、、、加藤登紀子のシャンソンが流れてくると、学生の頃、仲間の下宿で安酒を飲みながら議論したこと、デモの隊列の中で凛として輝いていた娘のこと、様々に降りかかってくる現実の中で理想を少しずつ忘れてきたことなどなど、、、、が静かに、走馬燈のように、、、、。(以上、かなり想像も入ったおじさん達の心の内側でした)、、、、という世界が全くわからんっという場合は、たぶん、とてもつまらない映画だと思います。また、こういう世界は知らないけど、カラオケ行くと「イチゴ白書よもう一度」とか歌っちゃうという人には興味がわくかもしれません。、、、、、、そしてこういう世界の一端を知るものにとっては、かけがえのない映画です。はい。 【王の七つの森】さん 9点(2004-11-05 12:14:11) (良:1票) |
1.これは全編アイロニーに彩られた作品だと僕は感じています。体制側だったポルコが軍を抜け反体制になったら豚になっていた。豚というのは資本主義における食肉産業の象徴で畜産動物の雄ですよね。アナキズムもしくは左翼的な香りが匂うとこですね。全体主義から"個"の尊重へ。僕はポルコ(宮崎)が自分で呪いをかけたとしか思えません(劇中でそういうセリフありましたっけ?)。豚になることによって恐らくそのコントラストがハッキリする事を狙った皮肉ですね。僕達はみんな良くも悪くも全体主義=和の中で生きていますから、この作品でもポルコ以外の誰かに感情移入してポルコを見ていると思います。中には「格好良い」と思う人も居れば「羨ましい」「妬ましい」という気持ちから嫌悪感を示す人も居るかも知れません。「わからない」という人も居るでしょう。しかしポルコの存在は、そういう僕達の精神状態や"個"に対する考え方を映す鏡であるとも言えるような気がしてます。魅力もあるがそれ故に憎悪もある。でないとみんなしてあんなにポルコを追い掛け回したりしません。この作品がすごいのは、娯楽映画としても充分に機能している点です。僕もアドリア海の美しさに目を奪われたひとりですから。個人的には、映画『イージーライダー』にも通じる作品だと思います。 |