7.広島、長崎の原爆投下をテーマとした映画は数多くあるが、進駐軍が睨みを利かす戦後間もない状況下、真っ先に取り上げた姿勢だけでも充分評価に値する。しかもこの映画は原爆投下から7年しか経っていないこともあり、つめ痕が残る被爆地広島の貴重な記録フィルムという側面も持っている。監督と脚本は新藤兼人。監督初作品である前作は小手ならし的な自伝的小品だったが、今作が巨匠新藤兼人の世に問う本格的なデビュー作と言っても良いのではないだろうか。その後も広島の原爆や核の恐怖を取り上げた新藤作品は多いが、それは監督自身が広島出身であると共に人間として許されざる行為であることに他ならない。この映画は原爆投下当事、広島の幼稚園で教師をしていた女性(乙羽信子)が7年後、かつての教え子たちに会いにゆく姿をセミ・ドキュメンタリータッチで描いている。作り手たちの情熱や意気込みが充分過ぎるほど感じられるし、なにより役者陣個々の確かな演技力に支えられており作品そのものの完成度は極めて高い。とりわけ戦争と原爆により我が子と家屋を失い、しかも視力までも奪われてしまった岩吉爺やを演じた滝沢修には文句の付けようがない。その痛々しい姿から放たれる演技は原爆の悲劇性を完璧なまでに具現しており、ただただ悲痛であり見る者は涙なしではいられないほどである。「なんぼでも生きるんじゃ。こないな姿顔を世間の人に見てもらうんじゃ。」など胸に突き刺さる台詞もいくつかあり、それらは原爆でなすすべなく虫けらのように死んでいった二十万人もの市民の声を代弁している。「8月6日は永遠に忘れてはならない」と訴えているこの傑作に、何らためらうことなく10点満点を付けさせて頂きます。 【光りやまねこ】さん 10点(2004-11-29 10:48:54) (良:3票) |
《改行表示》 6.《ネタバレ》 8月6日に広島の映画館にて鑑賞。 この日は広島にとっては特別な日。広島に生まれて暮らす私にとっても特別な日。 夏のこの時期には、広島市内のミニシアター系の映画館で、原爆にまつわる映画が毎年上演されている。 「原爆の子」は、広島のその後を描いた物語だが、復興半ばの広島と、傷を抱えたまま生きていく人々の姿は、言葉にすることが難しい哀しみをたたえている。 哀しみと怒り。 その怒りを飲み込んで、過ちを二度と繰り返さぬことを願い、訴える被爆者の方々の祈りが届くことを願う。 【roadster316】さん [映画館(邦画)] 8点(2024-10-10 18:01:29) (良:2票) |
5.《ネタバレ》 人類史上初めて原爆が落とされた街 広島。その広島出身の新藤兼人監督がGHQの日本占領終了直後に放った広島原爆をテーマとした反戦映画。原爆で家族を失い、今は瀬戸内海の小島で教師をしている主人公 石川孝子(乙羽信子)が、あの日原爆に遭って生き残った教え子たちを訪ね歩くというストーリーなのだが、まだあれから七年しか経っていない広島で実際にロケをしていることもあり、いくらか復興しているとはいえ、原爆の傷跡がまだまだ残る広島の街はここにあの日原爆が落ちたということをリアルに物語っていて生々しく、この街の風景を見るだけで考えさせられるし、つらい。孝子が訪問したその日に原爆症で死んでしまう教え子の父や、少女が教会でもはやいつ死んでもおかしくない状態で横たわっているシーンは原爆が投下直後だけでなく、その後何年にも渡って身体を蝕んでいくという恐ろしさが伝わってきて切なく、胸が締めつけられる思いがした。新藤監督は広島出身の作家としてどうしても原爆投下間もない広島の現状をこの映画で描きたかったんだと思うし、新藤監督の原爆や、戦争、そして故郷への思いが伝わってくる。真夏の太陽の下で元気に遊ぶ子供たちも印象に残るのだが、この子たちに未来を託すという新藤監督の強い願い、戦争のない平和な世の中への願いが込められている気がしてならない。それはこれからの未来を生きるすべての人たちへの普遍的なメッセージなのだと思う。そしてそれは戦後69年経ち、新藤監督自身が亡くなった現在でも決して変わることはないだろう。被爆して間もない広島が舞台ということでも歴史的価値のある映画だが、そんな監督の普遍的なメッセージを発信し続ける映画として、これから先もずっと残っていくべき映画なのだと思う。 【イニシャルK】さん [DVD(邦画)] 9点(2014-08-01 02:13:03) (良:2票) |
4.《ネタバレ》 原爆が落とされた広島、そんな広島で生まれ、広島で育った新藤兼人監督だからこそ余計に戦争というものの辛さ、あの時代の子供達の健気さ、そういうものがひしひしと伝わってきます。子供達に対する石川先生の「みなさん、お休み中はうんと遊んで勉強して丈夫な子供になってください」という台詞に込められた力強いメッセージの中に生きる希望というものが見えてくる。この映画の中の子供達を観ていると今の子供達は子供らしさというものに欠けてしまっているような気がしてならない。子供が子供らしく外で元気に遊んでいるというようなものは最近はあまり見かけない。この映画の中の子供のようにもっともっと外で遊んでこそ子供なのだと思う。新藤兼人監督による現代の人達、大人と子供達全てに対して人間は希望を捨ててはならない。未来を生きようとする全ての人達へのメッセージ的な映画という意味でこの映画の持つ存在価値の高さは観るに値する。そして、二度とあんな原爆による被害というものがあってはならない。そういう監督の熱い思いが伝わる映画です。 【青観】さん [CS・衛星(邦画)] 8点(2011-08-16 22:07:20) (良:2票) |
3.《ネタバレ》 原爆は日本人全体の奥深いところに傷を付けたのだと思います。この映画は原爆によって直接もたらされた悲劇ではなく、終戦後も続いてゆく悲劇を描いています。親を失った子供、後遺症によって命を奪われようとしている子供、生活の全てが破壊され、何もかも失い、僅かな希望だけを頼りに生きる老人。原爆によって破壊された広島の街は、現実にフィルムに焼付けられた廃墟と瓦礫と、そして復興の兆しを見せる世界。悲劇に対比するように、原爆とは無関係な世界を生きているような人々の姿も焼付けられてゆきます。しかし、目を背けてもその傷が消える事はありません。この映画が撮影された終戦7年後と違い、今は61年もの歳月が経過し、その傷は消え去ったようにも見えますが、実のところ永遠に消える事はないのだと思います。その悲劇の上に今の生活が成り立っているということ、それを忘れる事で悲劇は繰り返されることを、この映画は力強く示しています。飛行機の音に不安げに空を見上げるラストシーンは、その不安が的中しなかった訳ではなく、今もまだずっと続いているものなのですね。 【あにやん🌈】さん [DVD(邦画)] 8点(2006-08-15 00:41:34) (良:2票) |
《改行表示》 2.《ネタバレ》 復興から僅か七年、されど七年。 だけどそんなこと関係ないやとばかりに川にドボンと飛び込み夢中で必死に遊びに興じる少年たちの姿を見てるとたくましささえ感じます。 そしてこの時映像に映ったこの子らがこの先長い年月をかけて広島の復興に携わっていったのだろうなという事を考えると感慨深いものがあります。 まあ何にしても戦後まだ間も無いというべきなのか いや、もう7年も経っているじゃないかと思うべきかは迷うところではありますが、石川孝子先生が出くわした悲劇のストーリーをよそに この作品全体からは強靭なパワーを感じざるを得ませんでしたね 広島がんばれ こどもがんばれ みんながんばれ 日本人がんばれと。 【3737】さん [CS・衛星(邦画)] 7点(2015-10-03 23:56:15) (良:1票) |
1.単純明快に生み出されたものほど、そのインパクトは絶大である。この作品は、「広島の庶民(主として子供たち)のその後」に明確な視点を定め、そこからぶれず、あるがままの状態を飾らずに描出することに集中している。だからこそ、その内容は、実感と共感を生み出し、心に残るものとなっているのである。ただし、どうしても気になるのは、主人公も家族を亡くしたという設定であるにもかかわらず、その背景が感じられないこと。何となく、第三者的視点のような雰囲気を感じないでもない。 【Olias】さん [DVD(邦画)] 6点(2008-12-04 03:37:12) (良:1票) |