4.《ネタバレ》 アレキサンダーの幼少からその死までを丁寧に描き、知られた挿話をほとんど盛り込み、大王の足跡を辿るだけでなく、心の内面にまで迫ろうという姿勢には好感が持てる。CGによりガウガメラの戦い、バビロンの街並み、インドでの密林戦などが見れただけでも満足で溜飲が下がる。特に鷹の目線を交えて大俯瞰で描いたガウガメラの戦いは見応えがあった。しかしながら人物像に関しては違和感があった。大王の言動があまりにも現代的過ぎるのだ。「自由、人種の融合」など理屈っぽい上に、よくしゃべり、よく悩み、よく泣く。人物像の真に迫ろうとするあまり、表現に力みがあるように思える。新解釈で描きたいという気持ちは分るが、所詮古代の人物である。数少ない資料から人物像を掘り下げるのには限界がある。現代の価値観で解釈を加えたところで説得力に乏しい。両親の愛に餓え、腹心の裏切りに怯えるという英雄の弱みを強調するより、英雄は英雄らしく描いた方が受け入れられやすいのは自明の理だ。蛇信仰に熱中して夫を憎む母の狂気や暴力的な父に対する反抗心や男色趣味を殊更強調しても意味はほとんどなく、混乱をもたらすだけだ。大王の東征が「人種の融合と調和」なのか「征服と支配」なのかを映画の中で解釈する必要もない。東征の遠因を「母から逃れるため」「父を乗り越えるため」と精神分析的に捉えるのはよいが、それは示唆する程度に留めておけばよい。一義的な解釈を押しつけても反発されるだけだ。こういう人物だと決めつけても、畢竟詮無いことだ。曖昧模糊たる「アレキサンダー大王伝説」を多元的に描き、笑いを交えるくらいの余裕が欲しかった。描き方に余裕が無いので観ていて疲れる映画だ。事実を羅列するにとどめ、解釈は観客に委ねるのが好ましい。各地に築いたアレクサンドリアの様子や如何に統治したかが描かれていないのが不満だ。軍事面だけでなく政治面も描いて欲しかった。大王の妃やペルシャ王妃をわざわざ醜女に描く意図が不明だった。 【よしのぶ】さん [DVD(字幕)] 8点(2014-09-03 05:09:43) (良:1票) |
3.《ネタバレ》 「トロイ」「キング・アーサー」と来て、次は「アレキサンダー」ですが、個人的にはこの3本の中では明らかにこの作品が良く出来ていると思います。スペクタクルや俳優陣のキャッチーさから言えば、トロイに一歩譲ると思いますが、構成的には久しぶりの“史劇”と呼べるものを見た気がします。セットや衣装などは、この時期のことはさらっと流した程度だったので、あまり詳しいことは判りませんが、まあ史劇に多少の誤りは付き物、ということでそれほど気にはなりませんでした。それに、やはりこの手の映画の醍醐味といえば途方も無いエキストラを導入した戦闘シーンと、きらびやかで壮大なセットでしょう。昔と違って、多少CGに頼る事もありますが、やはりこうした“壮大なる金の無駄遣い”と思わせるようなものをまた見られるというのは史劇ファンにとってはたまりません(笑)。物語のほうはといえば、一番の盛り上がりである戦闘シーンが他と比べて少ない、という点で、そういったものを目当てで見に行った人には結構辛い3時間になると思いますが、その代わり、アンジーやホプキンスはなかなか素晴らしい演技を見せてくれてますし、アレキサンダー大王の心の葛藤など、人物に重点を置いた物語展開になっているので、ストーリーで楽しむ、という人にはなかなか良い出来だと思います。また、同性愛のことが描かれてるので、そういったものが嫌いな人にも受け付けられないと思いますが、そりゃ、この時代を描く上では仕方ないですよ。だってこの時代は完全な男性中心社会、神に似せて男が作られたと信じられてた世界なんですから、男の体=美しいもの=愛しいってな感じで式が成り立つわけですよ。なので、「なんだよこれ!?こんな○モ映画見に来たわけじゃねえぞ俺は(私は)!金返せよッ!」ってなことを思っていたとすればそりゃただその人の勉強不足って奴ですよ。聞く所によると、早々にラジー賞にノミネートされてしまったらしいですが、個人的には久々の“当たり”だと思います。 |
2.母親を嫌悪する感情と慕う感情はアンビヴァレンスの代表的な例であるが、それをアレギサンダーに当てはめるとは正直感心した。もっとも人間が落ち着くべきところの家庭において、偉大な父親との絶え間ない比較、母親の持つ狂気にさらされる続けるアレギサンダーにとっては、戦争と侵略、世界の果てをみるという目的が彼にとって安住の地だったのだろう。それが終わった時、彼は更なる目的、アラビア遠征を企画したことからも彼にとっての安らげる場所は、戦場であり戦友であり自分の部隊であった。そしてそれらの仲間から彼は弑逆される。偉大な功績を残した彼は本当に幸福であったのか?この映画は、近年のリアル伝説路線のトロイ、アーサーに比較しても段違いに題材を掘り下げられているように思う。 【クルイベル】さん 8点(2005-02-07 12:02:59) (良:1票) |
1.《ネタバレ》 前人未踏の大遠征を行った英雄アレキサンダーの偉業を期待して観に来た人なら「なんだこれ?」という映画かもしれない。 しかし、個人的には非常に満足できる映画だった。 自分の解釈が間違っているかもしれないが、映画の中のアレキサンダーは英雄でも王でもない、一人の弱い人間でしかなかった。 父の影に怯え続け、母に反発し、母から逃げるように東に向かって遠征していく。 自分の馬に影に怯えるなと言っていたが、影に怯えていたのは当のアレキサンダー自身であった。 そして東に向かったのは「自由の国を創るための夢」のためなんかじゃなくて、母から逃れたいだけだったのではないかという気がする。 それを「夢」と取り違えていったアレキサンダーと周囲の人々との確執と、アレキサンダーの孤独と悲劇が痛々しい。 終わることのない「夢」に人々が付いていけなくなった周囲の確執を表したプトレマイオス(ホプキンス)のラスト間際のセリフも実に見事だった。 異国の女を妻にしたのもひとえに母への反発だったような気がする。 自分が死ぬと分かってもワインを飲んだのも、ワインに浮かんだ母の姿を思いだし、母がいる故郷に戻りたくなかったからではないか。 もっともヘファイスティオンが死んでしまったため彼との約束もあったからだろうが。 自分の故郷があるにもかかわらず、自分の故郷となるべく地を求めさまよい遠征したのも母の影響のような気がしてならない。 それほどまでアレキサンダーが抱いた母への憎しみや愛情、複雑な想いを感じさせたアンジェリーナジョリーはなかなかの演技だったような気がする。 当然のように去年のラジー賞の最低主演女優賞に「テイキングライヴス(未見)」とともにノミネートされてしまったが、個人的には息子を王にしたいと願うかなり屈折したキャクラターを見事に演じきったと感じた。 特に夫が殺される瞬間を見つめる眼差しと、その夜にアレキサンダーと口論した夜は見応えがあった。ちらりと映るジョリーの内面を写したところもドキッとする。 中盤の戦闘シーンもかなり見応え充分。敵の大将もなかなかカッコ良かった。 それ以降の戦闘シーンが少ないのはちょっと残念ではあったが。 オリバーストーンはかなり好き嫌いが分かれる監督であるし、一般的な観客には受けいれられないと思うが、彼の狂気と映像センスの良さは個人的にはやっぱり才能を感じずにはいられなかった。 【六本木ソルジャー】さん 8点(2005-02-05 23:10:50) (良:1票) |