9.《ネタバレ》 この映画で一番好きな所は、リアリティーに満ちあふれた映画であるという所。 主人公二人も美男美女(ごめんなさい)というわけではないし、ストーリーも、二人の 秘めた想いを中心に、取り巻く人々の重く辛い日常のエピーソードが、やさしく嫌みにならない程度に散りばめられている。カメラワークもちょっと引き気味で全般的にゆったりとした感じがして、だからこそ田中裕子が大切にしてきた想いが際立っている。また岸部一徳の独特な喋りと仕草や雰囲気も、「押さえてきたけれどこらえきれない感情」を十分に表している。そして、お互いが久し振りに再会した夜に求め合う姿は、本当に不器用で、ひた向きで悲しくて切ない。田中裕子は、岸部一徳と仁科明子の死を受け止めながら、それでも変わることない日常の中できっと今まで通りに、でももっと強い意志を秘めながら暮らしていくのだろうなあと最後に思った。非常に好きな映画だけれど、主人公二人があまりにもいじらしく切なすぎて、もう一度観るには忍びない感じがする映画でした。 【たくみ】さん [CS・衛星(邦画)] 7点(2009-11-01 19:52:39) (良:2票) |
8.《ネタバレ》 冒頭の数シーンで田中裕子さん演じる中年女性のそれまでの人生を垣間見ることができます。毎朝行っている牛乳配達。朝の長崎の坂道を、青白い光が優しく染める。どんビキの画の中には静けさがあり、その中で僅かに聞こえる牛乳瓶のぶつかり合う音。それは町中に響く。毎朝、毎朝。田中裕子さんは、その中に完全に染まっていた。めだち過ぎず、それでいて埋もれていない。この演技。これぞ演技だと実感する。気合を入れて上る長い坂道、玄関の前で座って待っているおじいちゃんに渡す牛乳瓶、それを急かす訳でもなく呼吸を整え飲み終わるまで待つ、そこには慣れを感じる。歳を感じるのにも関わらず、老夫婦の家に来ると子どもに見える。そこには昔からの積み重ねを感じる。そして躊躇するかのような表情を見せる一軒。10分かそこらで、町にとっての彼女の存在位置を理解することができる。話が進むに連れて、彼女がなぜあそこまで辛い仕事をするのかが理解できていく。彼女の台詞にもあったように、考える暇がないほど働き、疲れた状態で一日の終わりに読書をする。それが彼女の幸せだと。しかしその一方で、その全てが“愛”を意識しない為に行われている行動だという事にも気付く。そして、彼女は意識してしまう。考えてしまう。ミスをしてしまう。そんな彼女の変化、動揺、葛藤がヒシヒシと伝わってくる。生きていること、その中で人は誰かを愛さずにはいられない。彼女もまた、愛に溺れた。象徴的な展開だった。燃えるように愛し、そして燃え尽きた。が、しかし、彼女の中にからつっかえは消えた。意識しなくてもいい日々が訪れた。と同時に悲しみを背負った。だけど、そんな表情一つも見せない。それが彼女の強さであり、美しさだった。愛する人がいなくなった家に届け続ける牛乳瓶。そこに彼女の消えていない愛を感じる。 【ボビー】さん [DVD(邦画)] 9点(2007-03-12 01:34:49) (良:2票) |
7.学生時代につき合っていたカップルも、やがてそれぞれが別々の人生を歩むことで疎遠になってしまうのは誰しもが経験のある話。しかし、この映画の女と男の場合は、お互いに町から一歩も出ることなく、30年もの年月の間、秘め事のように相手を思い続けて暮らしているのである。そしてある日、二人はひょんな事から急接近する運命に遭遇してしまう。紅い糸で結ばれていた宿命なのか、或いは運命の悪戯なのかは分からないが、二人にはやはり縁があったということなのだろう。もちろん不倫を扱った作品でない事は明瞭で、それぞれの人生の紆余曲折が、やがて大きなうねりとなって結びついたのであり、男の妻の願望はそのきっかけに過ぎないのである。そこに女と男の出逢いの不思議さを感じさせる本作のストーリーテリングの巧さがある。家庭を持たない美奈子は、彼女なりに充実した人生を過ごしているが、痴呆老人を抱える老夫婦という身近な問題があり、また、結婚したものの余命幾ばくも無い妻を抱えた高梨には、仕事上での児童虐待問題に頭を悩ませている。共に自分たちに無いものに拘り合う事で男と女の結びつき、延いては夫婦の在り様を自分たちの現実の問題として、否応なく直視させられる。そこへ降って沸いたかの様な運命の急展開が待っていたのだが、結局思い半ばで成就しないのも、また二人の宿命なのだろうか。運命に弄ばれ長い歳月を経ての二人の決着としては、無残というよりはむしろ滑稽ですらあり、アイロニーを感じさせる。人生とはそういうものなのだろう。息を切らしながら坂道の長い階段を駆け上って行く彼女の人生は、今再び始まろうとしている。いつか(誰か好きな人と一緒に)読書する日を胸に秘めながら。その神々しいまでの田中裕子の表情が素晴らしく、女一人で生き抜いてきた精神力を感じさせる上手さは際立っている。また脇を固める演技人の充実ぶりも瞠目に値する。それだけに高梨を演じる岸部一徳には、長年思い続けられるほどの男としては、今ひとつ魅力に乏しいと言わざるを得ないのが、残念である。 【ドラえもん】さん [映画館(字幕)] 8点(2005-11-03 15:55:26) (良:2票) |
6.《ネタバレ》 設定などは良いかと思うが、作りが甘いというか展開が強引というか。突然ラジオに寝所を綴った葉書を書くのも妙だし、それを読まれている番組を偶然にも男の病床の妻が聴いているというのも妙だ。そしてそれが彼女が書いたのだと確信するのはもっと妙だ。他にも色々。めでたしめでたしとなった後に男が雨の中をフラフラと歩いているシーンになってもしやと思ったらそのもしやだった。死に顔が笑っていただの何だのそんな話はどうでもいい。そこで死ぬのは勘弁だ。なんたる安直。それをやっちゃいけません。そして「いつか読書する日」というタイトルはそれ単体だけ聞くと雰囲気があって良いタイトルだけど、内容の読書する日の意味あいとはかなりずれがある。もっと内容にあったタイトルをつけるべきだったろう。 【MARK25】さん [CS・衛星(邦画)] 3点(2008-02-09 17:11:46) (良:1票) |
5.《ネタバレ》 あるラジオ番組で絶賛している人がいたのと、2005年キネマ旬報ベストテン第三位の作品ということで、かなり期待して見ました。・・しかし、面白いとは全く思えませんでした。その理由は以下の通りです。・・・1. 岸部が牛乳を一口飲んで捨てるというシーン。→人が苦労して配達した牛乳を殆どそのまま捨てるという光景自体が、醜い。そしてそれは岸部が、田中のことを好んでいないということを明白に伝えている。・・・通勤のシーンなどで、岸部が田中を意識しているというようにも思われるが、岸部が妻の手を握って寝たりすることを考えれば、岸部が田中のことをずっと思っていたなどということはあり得ない。・・2. 唐突な展開の多さ。→1)深夜放送のシーン。どうして容子が一人ベッドで深夜放送を聴くことになるのか、また田中と同じ放送をどうして聴いているのか、またそれが田中とどうしてわかるのか。2)最後の岸部の死のシーン。どうして田中は、人が溺れたと聞いてそれが岸部ではないかと思うのか。そもそも保護された子どもがどうして川辺にいて水にはまるのか。・・・3. 田中が30年間、岸部を思うというのも、考えてみれば悲惨な話。そういうのを美しいと思うのは、男の父権的、貞節イデオロギーに根ざしているのではないだろうか。4. 容子の死が間近になったとき、岸部が、容子に、そろそろ休暇をとろう、という。これは夫婦で、死について十分に話し合ってきた結果として出てくるはずであり、それだけ夫婦の絆の強さを思わせるが、岸部はどうして息子の絵を売って、夫婦としての歴史を清算しようとするのか。5.その場の思いつきのセリフが多いこと・・・1)疲れて何も考えずに寝る、といいながら、しっかり読書している。・2) 50歳から85歳が長いか、という発言をさせておいて、岸部をあっさり死なせている・・ 5. 「いつか読書する日」という題名が意味不明。・・・この「いつか」というのは過去経験の事柄に対して用いているのか、それとも未来に対して用いているのか。過去ならば、「いつか」ではなく、せめて「いつしか」くらいにしないと、過去の経験とは思えない。また仮にそうだとしたら、実際の社会とのコミュニケーションを欠いた、読書空間を評価するのは、現実逃避を評価するようなもの。・・・・・・・・とにかく、全体として、どういうことを表現したかったのかが全く理解できませんでした。 【王の七つの森】さん [DVD(邦画)] 3点(2007-03-17 14:40:57) (笑:1票) |
4.きわめて日本的な映画でした。外国人が見たら典型的な日本映画だと感じるのではないかなと思います。結末は予測できるものでした。田中さんはいい演技してました。でも頼むから胸だけは見たくないと思いましたけど(笑)ぎりぎり見えなくて良かったです。でもこういう日常生活を送る人、何かを一生後悔しながら生きる人って大勢いると思います。心に響く映画でした。 【たかちゃん】さん [CS・衛星(邦画)] 6点(2006-12-04 19:39:34) (良:1票) |
3.見ていて無性にカレーが食べたくなった。 本筋も甘いような切ないようないい話だったけど、 カレー小僧の話をもっと見たかったような気がする。 それにしても、中年男女の絡みは生々しい。 【もとや】さん [DVD(邦画)] 7点(2006-06-13 15:33:02) (笑:1票) |
2.久しぶりに良質の邦画を観た。とにかく田中裕子のほとんど中年男のようなしどけなさと、幼女のような素朴さ、時折見せる妖艶すぎる表情にまいってしまった。淡々とした日常。そこにはさまれる認知症老人の問題や、児童虐待などの深刻なエピソード。在宅で家族を看取るということ、長すぎる恋の顛末、そして死。これだけの要素を盛り込みながらも、どこまでも静かで上品なユーモアが散りばめられていることに感嘆した。書庫に並んでいる固い本のタイトルにも監督のこだわりが感じられる。中年以降のものにはたまらない作品。 【Rei】さん [映画館(邦画)] 10点(2006-04-14 17:07:48) (良:1票) |
1.《ネタバレ》 30年もの間、たった一人の人を想い続ける…主人公美奈子の場合はその間独身をとおし、両親もいないのに育った町でずっと暮らしながらひたすら静かに想い続けているのだ。30年という途方もない時間の中に紆余曲折が無いはずがない、という考えが私の中にあるので、何だか夢物語でも見ているような感じがした。反面羨ましいような気持ちも…。明るい坂の町の情景と脇の登場人物が魅力的で、認知症の男性のエピソードなどとても気に入ったが、いきなり現実に引き戻されるようなシーンも混ぜられていてちょっと苦みもあった。ラストまでのあの流れも呆気に取られたが、彼女にとっては30年囚われていた想いから脱した感覚があったのかな、それがあの笑顔ではないかと思う。田中裕子は格好良さと鈍臭さを一緒に表現できる稀な俳優だな、と感心した。 【のはら】さん [映画館(字幕)] 7点(2005-12-06 17:54:25) (良:1票) |