7.作品全体を貫く力強さと繊細な細部、ドキュメンタリータッチとファンタジーのパッチワークが鮮やかに織り込まれた映画でした。たくましいやひ弱いといった形容を拒むように生きるために成すことを成すクルドの人々が描かれ、結果、同情や共感を拒むような屹立としたフィルム空間が生まれているのです。赤い金魚や亀、サテライトや目が見えない赤ん坊が比喩的でありながら、その意味を探ることが無意味であるかのように全てを無化しグレーで包み込んでしまうような曇天の空に、もしかしたら世界中のすべてが曇天であるかのような錯覚さえしてしまうようなその空に、青空にはない普遍性を感じながら映画館を出るとそこは曇天の冬空。この空はクルドにつながっているのか。 【彦馬】さん [映画館(字幕)] 9点(2006-01-03 18:02:01) (良:2票) |
6.子供の生命力、パワーをひしひしと感じた。 サテライトや足の不自由な子の前向きな生き方、凄いと思った。
そして、アグリンの悲壮感にも共感。 私も女性なので彼女の怒りが伝わってくる。
現実に戦争や紛争に巻き込まれたように感じられた名作。 どうしたら平和に共存できるのか、子供たちの姿から私も考えたい。 【たんぽぽ】さん [CS・衛星(字幕)] 9点(2023-06-11 17:04:42) (良:1票) |
5.《ネタバレ》 一義的な価値は、現実世界の戦争と虐殺の実情を描き出した作品という点であり、その点のリアリティはロケーションや演者の身体欠損などを含めて最高レベルと言ってよいと思う。物語自体は非常に救いが無いものだが、それはある種、致し方の無いことなのであろう。
しかし一方で、この映画に描き出される人々とその生活には、決して悲劇だけではないものが描き込まれている。それはサテライトその他が放つ溢れんばかりの生命力であったり、アグリンが子供ながらに見せる意志の強さだったりする。淡々とした演出でリアリティの有る描写を成功させながら、人間のある種の強さ・美しさをも雄大に描き出した傑作。子供(しかも素人)を大量動員しているにも関わらず、演技(演技指導も含めて)の点でも地味に凄いと思っている。 【Yuki2Invy】さん [DVD(字幕)] 8点(2019-11-29 01:13:45) (良:1票) |
4.《ネタバレ》 バフマン・ゴバディは「酔っぱらった馬の時間」も凄かったが、「亀も空を飛ぶ」は圧倒的だ。
まず冒頭の強烈さからして引き込まれる。 風、曇り空、水面、下を向いて歩く崖の上の少女、すべてに絶望したような眼差し、その少女に向かって叫ぶかのように始まるオープニングの歌、そして亀の甲羅が映し出され、物語は彼女が崖の上に来るまでの過程を描きはじめる。彼女は崖下に飛んでしまうのだろうか。それとも・・・。この断崖の少女は、劇中度々映される。
戦争で大人たちは混乱し、子供たちは大人に頼る事なくたくましく生きている。戦災孤児たちの表情の凄味、活き活きとした様子。片足が曲がっていても松葉杖でヒョコヒョコと歩く姿。 TVを見るために率先してアンテナ組み立て、大人も巻き込む叫んでの演説、砲弾の薬莢が山積みになったゴミ捨て場を散策したり、地雷の撤去に精を出したり、銃を買出し土嚢を積んで射撃訓練を行ったり。
草の上に立てられるアンテナがもたらすアメリカの情報。異国へのあこがれ、自分たちをここまで追い込んだ張本人たちへの憎悪、恐怖。
そんな彼らの前に、冒頭の少女が姿を現す。彼女は夫のように両手を失った少年を連れ添い、背中には幼子を抱えるが、何処か奇妙だ。彼女はいつも幼子に対して複雑な眼差しを送る。 胸にしまいこんでしまった戦争の記憶、トラウマ、それを思い出させる幼子の存在。愛情と憎しみの間で揺らぐ。 幼子は何もしていない。ただ、存在するというだけで“わずらわしい”という不幸。幼子を守るのは彼女だし、それを殺そうとするのも彼女だ。自殺を思いとどまらせるのも、死にたいと思うのも幼子の存在。 彼女の事情を知らない者には、育児放棄気味の女にも見えただろう。 それとは対照的に、少年の方は両手が無い代わりに脚や首で仕事をこなし、首で幼子を“抱きかかえる”。幼子も彼を信頼して両手でしがみつく。慣れた口つきで地雷を引き抜く作業。
地雷探知機が不気味に鳴く小高い丘。金でも掘り当てるように人々は地雷を掘り続ける。 自分たちの友人を殺し、脚を奪ったのも地雷だし、ソイツが食いつなぐための貴重な収入源でもある。敷き詰められた掘り出し物。 それとも、憎むべきは地雷を埋めて行きやがった人間そのものだと割り切っているのだろうか。
彼らは同情もいらないし、同情するくらいなら金をよこせという心意気とタフさ、辛い過去を背負い時には投げ飛ばして前へ前へと進み続ける。それを投げ飛ばせなかった少女の悲劇。
自転車は移動手段であり、荷物を運ぶ荷台であり、クラクションで子供を安心させ、地雷探知機であり、身代わりでもある。犠牲になったのだ・・・。
鉄条網の境界線、脚を銃に見立てて見張りを挑発するのも幼子を命懸けで庇うため。 戦車の砲塔は上下して人々を見下ろす椅子になり、戦車の墓場は子供たちの遊び場だ。ドラム缶のような薬莢。これが雨のように降っていたのかと思うと怖い。その砲弾が空けた穴は水たまりに。 人を恐怖に震わせたであろうヘリも、今度は希望をバラ撒くために飛ぶ。
死への欲求がエスカレートする少女の恐怖。幼子を岩場に紐でくくりつけたり、放逐したり。地雷原に迷い込んでしまう恐怖。幼子はその恐怖を知らない、知っている者は騒ぎに騒いで泣き叫ぶ。あの瞬間の息の詰まる時間、粉塵が予想させる絶望。
彼は怒ってもいい。あれだけ必死になって助けたというのに・・・。見舞いの金魚もなんの慰めにもならない。 アメリカ軍の到着によって、この戦争はひとまず終わりを迎える。“ひとまず”であり、彼らの戦後は今も続いているのである。 【すかあふえいす】さん [DVD(字幕)] 9点(2015-06-04 21:06:37) (良:1票) |
3.《ネタバレ》 イラク戦争時のクルディスタンの状況、人々の暮らしぶりをドキュメンタリータッチで描いた非常に貴重な映像作品です。 正直言って、この映画について簡単に感想を表現する術を私は持っていません。ただ、何とも言えないやりきれなさを感じてしまうだけです・・・・。 アメリカはイラクをフセインから解放すると言っているが、イラン・イラク戦争時にフセイン政権を支援しクルド人虐殺を黙認したのは一体どこの国なのか?結局のところ、この作品に出てくる子供達はアメリカという国の利己主義が産んだ犠牲者とも言えるのではないか(もちろんアメリカだけが悪いわけではないですけど。アメリカに対する大人と子供の感じ方のズレも興味深かったです。)?というような事をいろいろと考えさせられました。 鑑賞後、DVDに収録されているメイキング映像を見てちょっとホッとしました。その位、重い内容の作品でしたね。 【TM】さん [DVD(字幕)] 7点(2008-02-19 18:30:03) (良:1票) |
2.率直な感想。 ・・・・素晴らしかった。 おもしろいとか、そういうエンターテイメント的なことじゃなくて。 かなり良かったです。 戦場に生きる子供たちが主演なんですけど、演技にまったく嘘がなく、素直なままの姿で余計に辛いんです。 恐怖と虚しさと悲しさ。 もうめっちゃリアル。
ストーリーはフィクションでも背景はすべてが事実で。 泣きすぎて頭痛いです。 気持ちも痛い。 心臓ちぎられた感じ。 どこもかしこもイタイ。
期待以上の作品でしたよ。 今までいろんな国のいろんなジャンルの映画を見てきましたが、これはマイベスト5に入りますね。
『これほんっといいわ~』っていう作品に出会った時にだけ起こる現象があるんですけど。 説明がちょっと難しいのですが、そういう時はとにかく体が震えるんです、鳥肌と共に。 その現象が今回かなり久々に起こりました。
やっぱり重い映画っていい。 考えさせられるbenefitialな作品に出会えて感謝。 【未歩】さん [映画館(字幕)] 10点(2005-10-23 00:03:46) (良:1票) |
1.時はアメリカのイラク侵攻直前、トルコ国境近くのクルド人集落で暮らす子供達が主人公の非常に強くて清廉な作品。この監督の映画は思わせぶりなところが無くて実に真っ直ぐで輪郭がクッキリしている。内容は心が潰れるような話しなのに決して感傷的じゃない。だから観客が色々邪推したりする必要もない。尚かつ、詩情的でもあって「映画」として「見せる」事も忘れない。この監督もしかして天才?と思ってしまった。 【黒猫クロマティ】さん [映画館(字幕)] 10点(2005-10-16 16:20:36) (良:1票) |