7.たしかに眠気を誘うほどに静かで淡々とした映画ですが、私は眠たくならなかった。それどころか最初からずっとドキドキしっぱなし。この男、いったい何考えてんだろう?怒りだすんじゃないだろうか、今度は何言い出すんだ?って感じで。けして内面を見せようとしない展開で見る者を釘付けにする演出が絶妙。主人公は自殺をしようとしている。しかしその理由は語られない。語る必要もない。自殺の理由はいくらでも作り出せます。誰もが持っています。だからこの映画は、自殺を思いとどませるのに自殺の理由=原因を解決するのではなく、生きる理由を模索する。美しい空、冷たい水、おいしい桜桃、そして人との関わり、そのひとつひとつが十分、生を見出す理由になる。ラストはびっくりしました。映画はもう終わりましたと我々に言っている。主人公がはたして生を見出したのかどうかは見せずに。主人公は生を見出し、朝を迎えてほしいと観客に思わせたところで、もうこの作品は全てを伝えた、、、そういう意味かもしれない。 【R&A】さん 7点(2004-12-21 12:58:14) (良:3票) |
6.ネタバレ クルマを運転しつづけるオッチャン。オッチャンは死ぬことを、自殺することを、考えている。で、出会う人に自殺の手助けを頼む。しかしオッチャン、一人で勝手に死ねばいいでしょう、一人で死ぬ方法なんていくらでもあるでしょう。見知らぬ人から自殺幇助を頼まれて簡単に引き受ける人なんて、そうそういないでしょう。と言う訳で、なかなか「自殺」の手助けを引き受けてくれる人には巡り合わない。オッチャンは何故死のうとしているのか、それはわからない、ただ、生への別れを告げるにあたって、誰か見知らぬ人に自殺幇助を頼む、それが、オッチャンの生に対する最後の繋がりであって、見知らぬ人との会話を通じ、その見知らぬ名もなき人たちの人生が浮かび上がる。会話は淡々と続き、車窓には荒涼とした風景が淡々と流れ、クルマは淡々と荒れ地を走り続ける。そしてついに、オッチャンは、協力者を得て、命を絶つ・・・絶った、らしい。この映画のラストは、どう解釈すればよいのか。荒涼としていた風景には緑が芽生え、撮影隊が映画の撮影を行っており、あのオッチャンもそこにいる。あくまでこれは映画なんです、という“メタ”なのか。あるいはこのシーンは、オッチャンが生き返って、心機一転、映画俳優としてデビューしたという後日談なのか(そんなアホな)。監督の意図ははっきりとはわからないし、このラストだけが本作の真価でもないはず。ただ、このラストが何となく「面白い」と感じたのは、映画本編が「自殺の手助けを見知らぬ人に頼むがなかなか引き受けてもらえない」という孤独な物語であったのに対し、このラストのオマケは「こういう孤独な内容の映画でも、こうやって大勢のエキストラを動員し、大勢の協力があって作られてるんですよ」と言っているようで、その対比が印象的だったから・・・。 【鱗歌】さん [CS・衛星(字幕)] 9点(2010-08-23 22:35:26) (良:1票) |
5.ネタバレ 荒れ地に伸びる未舗装の道路を進む車。ほとんど同じような情景しか出てこない映画なので、人によっては死ぬほど退屈な作品だろうと思う。でも、どこまでも乾ききった風景と主人公の心がシンクロするような演出に私は何故か冒頭からはまってしまって、最後まで目が離せず一気に見た。おお、なかなか面白かったぞ、と腑に落ちたところであえて不要と思わせるシーンを入れているのは、「はいはい、これは映画ですよー」という宗教的なエクスキューズなのだろうか。最後の最後でノンフィクション的に異文化を思い知るという一粒で二度美味しい(?)作品。 【lady wolf】さん [CS・衛星(字幕)] 7点(2010-07-11 00:12:32) (良:1票) |
4.ネタバレ 内乱や戦争、様々な理由から国を出て、貧しいながらも希望を持って生活している人達に大金で自殺ほう助を頼む困った男、バディ。 考えがまだ浅はかそうな若造ばかり狙うけど、彼らは宗教という知識を持っているのでバディに自殺しないように若造なりの優しい言葉をかけてあげるのに、反論ばかりする男、バディ。 挙句の果てに神学生の意見に、神官になってから言えとバッサリ切り捨て。オマエそんなんだから自殺する方向になるんだよ・・と言いそうになってしまった。 そう、バディの駄々っ子ぶりとカメラは常に助手席から見たバディのアングルという起承のなさにウトウト眠りそうになってたら、バディが横で話してる気がしてきたんだよね。 これには驚いた。 監督も心得てるのか、仏も3度までの3人目は人生味わってそうなオッサンで、ほう助を引き受けてくれつつバディに反論の余地のない説教までしてあげる、この時の話は良かったなぁ。 ここで桜桃の意味も判明。なるほど。 オッサンの勤め先の博物館でバディがぼんやり佇むシーンは本当に綺麗。霧モヤ最高。 結末も良かった。ある意味映画(フィクション)らしいと思う。 この結末でさわやかな気分になれたので、高得点にしときます。 【晴朗雪月花】さん [ビデオ(字幕)] 9点(2007-07-11 00:15:13) (良:1票) |
3.ネタバレ 自殺の協力者を吟味してわざわざ善良らしき人々に頼むのは、潜在意識では死にたくないと思っているからだと思います。子供が悪さをしてちゃんと叱られるかを確かめるみたいに。その〝自殺〟からの〝生〟への執着という観点は面白いです。ウズラを殺す実際死に隣接している初老の男に〝生〟の素晴らしさを訴えられて立ち直る展開も〝死〟と〝生〟の対比でしょう。道義的な主義では決して説得されないというのも根本的な〝生〟の尊さを見直しているように思います。生きている幸福感が〝飛行機雲〟や〝雲の切れ目から覗く月〟というのが何とも微笑ましいじゃないですか。それに「寝ているのかもしれないから石を投げて確かめてくれ」と頼むシーンはちょっぴり可笑しかったです。それから笑い話なのかもしれませんが〝指の骨折〟も上手い話ですね。〝考え方が病気なんだ〟って思わず納得してしまいました。・・・ただ、確かに面白い切り口なんですが、何にもない風景の中、どうという展開もないストーリーが進んでいくので、正直退屈して途中で何度も睡魔に襲われてしまいました。夜中に観ていたら主人公と共にさわやかな朝?を迎えていたでしょう。 【ミスター・グレイ】さん [ビデオ(字幕)] 6点(2006-03-20 18:40:26) (良:1票) |
2.他人に相談をする人がいますが、私にしてみたらそういう方は既に自分なりの答えを持っており、自分の望む答えを出してくれる人を見つけて背中を押して欲しいだけと思っております。すぐに土をかけてくれる人が見つかっても本当に自殺したのだろうか?彼の本心は自殺などする気は無いのです。ジハードのため戦う兵士、神学生、イスラムの教えに忠実なものを選べば自殺を止めてくれる筈。鳥の命を奪い剥製にする老人、理由はあれど命を奪う事に抵抗を感じない人間が語る言葉こそが現実感を持った言葉となり、自殺をしたくないという彼の本心に届き背中を押す。自殺はしたくないと心は決まっていても自分なりの納得できる落とし前が必要だったのでしょう。 【亜流派 十五郎】さん [ビデオ(字幕)] 7点(2006-01-01 21:12:24) (良:1票) |
1.人がまだ余りある命を無駄にしようと決心する形は、大きく分けて2つかも知れない。
一つは、自らの命と引き換えに、何かを守るとき。
一つは、漠然とした死への理想像を描いてしまった時。
本作は、後者だろうと感じた。主人公は何か、切っ掛け(原因)があったにしても『死の幻想』に愚かにも憧れてしまった...そう感じる。証拠に、自殺の手助けを他人へ求めている。同時に、この作品は死への渇望も、ましてや生への羨望も無い。“死”自体に意味など無い。意味を求めていたとしても、彼は彷徨う内に其れを失っている。ただ、死ぬ為だけに、死ぬ場所を探して足を前に進めるだけだ。
甘やかな死に魅入られていたとしても、そんな物は単なる“幻想”でしかない…監督はそう伝えたいのか?それとも、“生”は人生の足枷だとでも言いたいのか…。 一つの生命として、この世に存在し始めたときから、人間は(人に限らず…)絶えず彼岸に向かいながら、此岸の営みにいるのであって、その中の少数が終焉を迎えるまでのプロセスをとばし『死』をクローズアップして見てしまうのも不思議ではない。その少数派の1人を主人公にしたに過ぎない作品。
深くて、軽薄な甘美さを、逡巡する主人公の行動と乾いた埃っぽい映像に載せて、私たちに届ける作品だった。 【MAZE】さん 7点(2004-06-14 00:19:16) (良:1票) |