6.《ネタバレ》 最初のうちは、明確な敵に対決していく何の迷いもない義勇軍の時代。訓練もどこか戦争ごっこのようなのどかさを伴う。しかしそのかつて訓練をしていた緑の野で仲間を処刑してから、ドラマは陰惨さを帯びてくる。ああローチの世界に入っていくな、と思う。敵の輪郭が崩れ、仲間の輪郭と溶け合い出す。やがて協定への妥協派と否定派への分裂、義勇軍は正規軍と反乱軍として対決する。これはアイルランドの特殊な物語ではなく、歴史上どこにでも見られた悲劇。ローチ監督自身すでに「大地と自由」でスペイン内戦を舞台に描いたテーマだ。何度描いても色あせぬテーマであることが哀しい。国家の哀しみ、民族の哀しみ、名前を知っているもの同士が殺し合う哀しみ、抵抗のための組織が組織のために弾圧を始めてしまう哀しみ。この映画では反復が効果を挙げている。冒頭のイギリス軍に銃で脅される場面が、終盤ではアイルランド正規軍によって反復される。密告を勧める場面も反復される。立場を変えて反復されることのやりきれなさが、この映画を底で支えている怒りだ。でもいったい何に対して怒ればいいんだろう。 【なんのかんの】さん [DVD(字幕)] 8点(2007-09-09 12:46:43) (良:3票) |
5.《ネタバレ》 両国の緊張の歴史になじみがないので、しばらくは、牧歌的な日常での抗争に現実味が感じられなかった。だが話がのみこめるにつれ、それこそ、北の国のきついウィスキーのようにその独立運動の徹底と妥協との葛藤が胸にしみた。奴は敵だ、敵を殺せ。この単純なパトスは世界のあちこちで未だ説得力を維持し続けている。 【ねこひばち】さん [DVD(吹替)] 6点(2011-03-10 18:19:13) (良:1票) |
4.《ネタバレ》 イギリスのジョークで「英国人は座って考える。フランス人は立って、アメリカ人は歩きながら、アイルランド人は後から」というのがある。そういうアイルランドの国民性は随所にあったと思う。
んが、ほぼ終わりの方まで「こりゃ4点だね4点」と思いながら観てた。 歴史のお勉強に近いし、このあたりはとりあえず高校の授業でもやってる内容。むしろ第一次大戦に勝ったのに敗戦に近いダメージを被った英軍の兵士とか、そういう「敵」の顔が見えないのが嫌だったかな。 石壁を背に若者を立たせ、見せしめでその中の数人を殺しておく「間引き」なんかは小説にはよく出てくる光景。街区でのお隣さん同士の銃撃戦も、アイルランドのトレードマーク。これに黒ビールと長い議論が加わればほら! IRA歴史映画の出来上がりじゃん! …そんな感じがするんですよね。後の北アイルランド解放テロに結びついていく「頑固なアイリッシュ魂」は感じた。
ところが、終わり近くでダミアンを説得する兄の言葉から、それまでの思考の流れが見えてきて、ビデオを巻き戻すみたいにガーッと兄テディの主要シーンが蘇ってきた。弟がロンドンに行く時、一人止めなかったテディ。弟がレジスタンスに加わった時、一人黙って臍を噛み続けたテディ。拷問の痛みに耐え、それから言動が変化していくテディ。 痛みを知った者と、知らない者の差がこれほどまで大きいのは…当然かな。オイラは兄貴に感情移入せざるを得ない。嫌な奴だが、それが人間だ。 「兄弟の相克」という内容から、『ケス』のテーマの発展形だとも言える。そういう観方でも、充実した面白いものがあったと思う。歴史映画としては平凡だと思うけどね。
●追記: ウィキペディアで調べて、テディの顔がマイケル・コリンズにソックリだったのを知る。なるほどね! 他のキャラもモデルがいるんだろうな…。 【エスねこ】さん [映画館(字幕)] 7点(2007-05-10 22:11:01) (良:1票) |
3.アイルランドの自然に囲まれた風景が、あまりにも美しいせいで、そこでドンパチと銃撃戦が行われている様子が、不謹慎にも、美しいと感じました。印象に残ったのは、アイルランド共和国議会の民事裁判で、金持ちの地主が裁かれるシーンです。あれは裁判というよりも、裁判ごっこでした。そのシーンが、アイルランドと英国との力の違いを、兵力の違い以上に、表現していたように感じます。私の浅はかなアイルランドの知識といえば、アイルランド=IRA=テロリスト、という偏見があったことですが、この映画は、テロ集団「IRA」の前身となるアイルランド義勇軍の話のようです。ところで、テロリスト、と一方的に我々は言いますが、アイルランド人にとっては、テロをしているつもりはなく、英国と戦争をしていると思っている。しかし両者の力の差があまりにもかけ離れているために、英国では戦争とは受取っていない。アイルランド人に無差別殺人をされていると思い込んでいる。本作では、英国側の兵士が非常に残酷に描かれているために、客観性が損なわれていますが、本当は英国兵士も政府に命令されて、国に家族を置いて、このアイルランドにやって来ただけなのです。そして異国の地で、アイルランド人のテロ行為に、気が狂うほど怯えていたのだと思う。アイルランドからの撤退を心から喜んだのは、英国兵も同じなはずです。この撤退で英国にいる兵士たちの家族も泣いて喜んだでしょう。それが本作からはあまり伝わってこなかった。もう少し英国側の苦悩も描いてくれれば、深みが増したかと思いますし、そういう意味では少し一方的な見方をした映画だと思います。この映画はイラク情勢を、連合国側の視点ではなくて、イラクの武装勢力側の視点で見たようなものと似ている。戦争は、どちら側の視点で見るかによって、真実が変わってくることがよく実感できました。 【花守湖】さん [映画館(字幕)] 8点(2006-12-25 18:55:26) (良:1票) |
2.カンヌ・パルムドール獲得の際のインタビューでケン・ローチは「英国が帝国主義的な過去から歩みだす小さな一歩になれば、、」と言っている。あきらかに現英国のイラク派兵に対し、いまだ同じ過ちを繰り返す母国への批判を含んでいると思われる。作品自体も英国に対する擁護など一切無い。今尚続く北アイルランド問題という英国にとって最も重い題材を実に辛辣に描き出す。しかしこの作品の凄さは、ケン・ローチの作品がいつもそうであるように、重々しい題材が描かれる、その背景の美しさにこそある。けして戦争を、また戦闘を美化しているのではなく、『シン・レッド・ライン』のように対比の対象としての美でもなく、ただただそこに美しさがある。もう一つ、複雑な問題をすべて見せようとはせずにピンポイントで描いているので、劇中混乱することもなく鑑賞できるのも好印象。映画で語られる物語は全くといって救いがありません。あるとすればこの映画で語られない部分を想像するしかない。そしてその想像の余地だけを残している。 【R&A】さん [映画館(字幕)] 8点(2006-11-29 11:53:51) (良:1票) |
1.私は英国好きで映画も好んで観るのですが、正直なところアイルランドという国についてIRAで紙面を賑わせたことぐらいしか知りませんし、イギリスと呼ばれる地域がどのように成り立っているのかも不明です。そもそも日本ではイングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドをひっくるめ便宜上〝イギリス〟という呼称を使っていますが、UKと呼ばれることからも分るように正式名はグレート・ブリテインおよび北アイルランド連合王国(辞書で確認してしまった;)であり、イギリスというのはイングランドから派生した言葉なのでイングランド以外の人々は気分を害すかもしれません。現在の状況ですらその程度の認識しかないのに歴史的背景はさらに複雑なはずです。まして本作は政治家でも軍人でもない市民目線からの描写なので社会全体の動向や彼らの行動の位置付けが把握しにくくアイルランド史を知らないと理解しづらいです。ですから両国の関係に造詣が深くないと本作を咀嚼したとは言えないと思いますし、また自国の人々がどう思ったのかが気になるところです。しかしその一方で、一般市民の兄弟が軸となった物語なので等身大であり感情移入などはし易いです。その結果、暴力から生まれる惨劇の数々に、どのようなバックグラウンドであろうと報復にしても武力行使は悲劇しか生まないのだという事と、醜い連鎖に終止符を打てぬ人間の愚かさ、哀しさが痛いほど伝わってきます。あらゆる場面が濃密であり、目を背けたくなる場面ですら瞬きするのも忘れそうです。 【ミスター・グレイ】さん [映画館(字幕)] 8点(2006-11-24 18:19:50) (良:1票) |