6.《ネタバレ》 ネタばれますのでご注意を。 ややこしいので一貫してエリスでいこうかと思いますが、物語がはじまってから彼女が知り合う人間の中で、「信用してしまいそうだけど絶対に信用してはいけない人間」はいったい何人いたでしょうか。 私の計算では、ファン・ハイン、ハンスの2人だけです。意外に感じられると思いますが、フランケンとかナチの将軍のように「悪い奴」と顔に書いてある人間は、信用してしまう可能性はまずないので安全なのです。彼らは脅威ではない。 本当の脅威は「信用してしまいそう」な人間のほうです。エリスはその2人を信用してしまいます。 けれどもわりとのん気に育ったらしきエリスは、そんなこと見抜けるわけがなく次々と騙されるわけです。 しかし、本当は、エリスが信用した相手のほとんどが、つまりその2人以外が「信用してもいい人間」だった、ということのほうが驚かなくてはいけないのかもしれない。 居心地の悪かった最初の隠れ家の住人も、次のヨットの彼氏も、川の虐殺から逃れたエリスを救ってくれた農家の人々も、ハンス以外のレジスタンスのメンバーも、愛するムンツェも、愛人仲間のロニーも、「信用してもいい人間」だったのです。 ということは、この混乱の時代にあって、世の中のほとんどの人間は信用してもよくて、その中にとても邪悪な人間が2人いました、というようなバランスになる。広いお花畑の中に、2箇所だけ地雷が埋まってる感じ。 エリスは信用してはいけない人間を信用してひどい目にあいますが、めげずに最終的には信用してもいい人間と共に復讐を遂げます。そうですたぶん、人は、地雷が埋まっているからといって、お花畑を歩かないわけにはいかないのです。 貴金属や現金で話が始まってキブツのシーンで終わるということは、この映画が、ユダヤ人が長年の習慣を捨て財産を動産から不動産に持ち替えたプロセスを描いたものといえるでしょう。 評価をいただいたあとですが一部訂正しました。エスねこさんご指摘ありがとうございました。 【パブロン中毒】さん [CS・衛星(字幕)] 9点(2008-07-21 00:29:54) (良:4票) |
5.さーて正式レビュー行きまっかー!
この映画、ホントに不思議な造りだよねえ。 (冒頭と最後に置かれた戦後シーンを除くと)いきなり途中から始まって、中間をすっとばし、「その後」をカットして進んでいる。主人公が平和に過ごしていた時期は、観客が違和感を持とうがどうだろうが「5ヵ月後」などのテロップひとつでジャンプしやがる。「平和」が全て削除されているじゃんよ(ついでに言えばバーホーベン映画だってのにベッドシーンもない!)。人物・伏線的には緻密な物語構成だけど、この「間隙」は相当クセモノだと思う。 本作はラヘル・シュタインという一人のユダヤ人の回想形式を取る。回想形式なのに「幸せ」がカットされているのはどういう事か。そこで何となく、一人称映画独特の「主観が物語までもねじ曲げる」という大トリックが仕掛けられている…てなコトに気付くのだ。 確かにラヘル・シュタインは、ナチス統治下で地獄のような目に遭った。だが多少とも幸福な時期はあったし、安全な時期もあった。彼女はそれを思い出せないのに相違ない。転じて、それが現代のイスラエルの駆動原理であり、もっと言えば旧約聖書で展開される出エジプト記の原理にもなっている(そこで聖書のエピソードがまた大量の間隙で構成されている事に留意すべきかもな)。 劇場で2回観たんだけど、この、怪しい奴だらけの人情迷路で、端役のクセに超重要である人間が2人ほどいた。全体構成を理解して、各キャラの腹の中を想像しつつ観ないと、その人物は浮かび上がって来ないので、最低2回は観る必要がある(断言)。 その人物たちが本作では端役になっちゃってるのは、主人公の心がそれを認めたくないから、だろう。彼女は戦争の被害者であって、あの戦争で、彼女と同じ虐げられた側にいながら彼女より幸福に生きた奴らがいるなんて、認めたくないわけだ。
物語の始まりが削除されているように、本作では物語の終りも削除されている(処理し残した伏線から考え、オイラはそう見ている)。 この嫌らしいトリックを、バーホーベン監督はわざとやっているはずだ。 なぜなら、現実のイスラエルの物語はまだ終っていないんだから。 【エスねこ】さん [映画館(字幕)] 9点(2007-04-07 14:04:30) (良:4票) |
4.いやぁ~凄かった。実話を基にしているみたいですが、政治的なことより単純に娯楽として面白かったです。何が凄いって回想シーンから導入していくので主人公の無事が完全に保証されているのにもかかわらず、劇中ハラハラドキドキしっぱなし。ポール・ヴァーホーヴェンが「女王階下の戦士」以来、正統派の映画も撮れるんだという事を見事に証明してくれました。もちろんエロもグロも要所でしっかり見せますが人間模様、殊に女性の描写がやっぱり良いです。内容についてはネタバレしてしまうとつまらないので控えますが、ヴァーホーヴェンの新しきファム・ファタール、カリス・ファン・ハウテンの美しいこと美しいことっ!歌声も素敵なんですが、彼女の素晴らしさはニコール・キッドマンのような気品が良い意味で無いこと。自由奔放と言いますか、あけすけと言いますか早い話がエロいんですねぇ。女性はどう思うか知りませんが男はああいう女性に弱いんですよ。鏡の前で下の毛を染めるシーン、汚れた足を便器の水で洗うシーン、もうやりたい放題で参っちゃいましたよ。それから彼女の友人となるロニーもまた凄いキャラクター。強いと言うか、しぶといと言うか、まぁたくましいんですね。もう生命力が溢れ出ているのです。この魅力的な女性たちと取り巻く多種多様な男たちとの妙、最後まであっという間に時間が過ぎてしまいました。 【ミスター・グレイ】さん [映画館(字幕)] 9点(2007-03-28 18:47:40) (良:2票) |
3.《ネタバレ》 簡単なあらすじだけ見て録画してあったものを1年後くらいに何とはなしに見始めたのですが、途中からグイグイ引き込まれ、終わったらグッタリと疲れ、いやあスゴイもの見ちゃったな~という感じ。バーホーベンの濃さは苦手でしたが、あーこの人の真価はこの映画にあったのね、と。完成度はパーフェクトといってもいいんじゃないでしょうか。繰り返し見るごとに新しい発見をできそうな作品ではありますが、今はまだオナカイッパイという感じで、よほど体力気力のあるときに覚悟して見ないと入り込めないなー、と思います。とはいえ殿方なら、主役の彼女のエロっぽさだけを目的に見てもいいかも。むしろそこが監督の最大の狙い目だったりして?(笑)。 <追記>いやはや、初回に書いた「最大の狙い目?」はちと的外れだったようで、お恥ずかしい。でも、なかったことにするのも潔くないから、そのままにしておきます(笑)。→少し襟を正して。→浅学な私はラストがよくわからなかったのですが、舞台となっている時世は50年代なかば。第二次中東戦争の始まりを暗示しているということなんですね。監督は、戦争の終わりは、別の戦争の始まり、と突きつけている。そこがこの映画の一番「キモ」なのかもしれません。 【おばちゃん】さん [CS・衛星(字幕)] 9点(2011-05-18 11:22:44) (良:1票) |
2.《ネタバレ》 ナチスがユダヤ人をしつこく追い回すという典型的でありきたりなヒューマンドラマはいっぱい観てきたので、もう観たくありませんでした。しかしみんなのシネマレビューの評価は嘘をつきませんでした。一番面白いのは主人公のユダヤ人であるエリスが死にそうで死なないところです。素晴らしい。「戦場のピアニスト」のユダヤ人の主人公もかなりしぶとい男でしたが、エリスはそれを上回るしぶとさだと思いました。特に圧巻だったのが船の上でユダヤ人が棒立ち状態で射撃の的にされて皆殺しにされるシーンでした。まわりのユダヤ人は次々に倒れていくのにエリスには弾は当たりません。いや当たっているのかもしれない。不死身なのかもしれない。人間じゃないのかもしれない。未来からやってきたターミネーターなのかもしれない。本当にびっくりしました。またエリスが体に注射されて殺されそうになったときも凄かったです。エリスの体が動かない、これは殺られた!と思いました。チョコ食って、少しは体が動くようになりました。でもこの状態では空でも飛んで逃げない限り助からないと思いました。そしたらやはり飛びました。窓から飛びました。思わず拍手しました。すべてにおいて完璧な女でした。シガニーウィーバーに変わって是非エイリアンシリーズの主役になってください。驚きの映画でした。エリスの生命力を賞賛したくなりました。人間ってすばらしい! 【花守湖】さん [DVD(字幕)] 9点(2008-04-22 18:24:58) (笑:1票) |
1.《ネタバレ》 ヴァーホーベン監督の良い持ち味は、なんといっても「エグさ」と 「いい意味での常に客観的な視線」にあると思います。 戦争やユダヤ迫害を描いた映画はたいてい、よく言えば「感動」「生きることの素晴らしさとそれを奪われる理不尽な悲しさ」を描いたものが多く、でも、ぶっちゃけ「主観的すぎ」「子供とかだしてこられたら、そりゃ誰でも泣くわい!!」「テンポ悪い」等の感想を抱きがちでもあります。(日本の8月前後にわんさか放映される戦争ドラマがいい見本でしょう)
この「ブラックブック」に関して言えば、とにかくものすごいテンポがいいです。 大変残酷なことが次から次へと起こるにも関らず、感傷的なシーンはほとんど ありません。その代わり、エロシーン・脱ぎまくりシーンは多いです(笑)そして、ユダヤ人・オランダ人(レジスタンス)・ナチス・英米軍、、 どの立場に対しても、必要以上に偏って味方をしている映画ではありません。というかみんなそれぞれ、嫌~~なやつと普通の人が混じってる。 この「公平さ」って単純にすごいなぁ~~と思いました。 「どこにだってワルはいるんだぜ。ナチスだけ、 戦争そのものだけ憎んでも戦争はなくならない。人間の中の悪がなくならない限り・・」というメッセージが明確にわかりやすく伝わってきます。 そして、ヴァーホーベン監督はこの映画でも、女性に対して、いつもの通り(笑) 脱ぎ散らかしまくり、下世話なシーンいれまくり、なのですが、 なぜかいつも、「この人ってもしかして、本当はフェミニストなんじゃないのかな」と 思わせてくれます。だって、監督の映画にでてくる女性は本当に、いつも、たくましく、強く、ずる賢く、本当の物事を見定める鋭い眼を持っていたりします。 エグイシーンのせいで、女性や良識ある男性からは 嫌煙されがちな映画かもしれませんが、生きることの本質的なものを本当にリアルに 描いていると思います。下の毛を染めているシーンに拍手です。染めなくても 手入れはみんなああいう風にしてるんだい!! 【やわらか戦車】さん [映画館(字幕)] 9点(2007-09-25 14:08:46) (良:1票) |