26.《ネタバレ》 ひたすら盗聴とそれをめぐる周辺のやりとりという一本で構成される地味な展開ながら、無駄な要素を排し、かつ必要な場面を的確に抽出することで、2時間20分にわたってまったく緊張感が途切れない。例えば、主人公がある日裏切りを疑われて呼び出されるわけですが、部屋へ入ったときに一瞬映される木製の粗末な椅子なんかにもセンスが表れています。ところで、あの女優は、自分が尋問を受けるときに、それが前に会った(自分を精神的に救ってくれた)人物であることは気づいていたのでしょうか。どっちともとれると思うのですが、こういう結論を伏せているところも余韻があっていいですね。●再見して分かりましたが、この作品は、冒頭の尋問シーン(およびそれと並行する講義シーン)だけで、すでに勝利しているのです。ここだけで、迷いなく職務に邁進し、尋問技術を磨きに磨いてきた主人公(表情は常に冷静、暴言や暴力もないところがポイント)、という役作りと表現が完璧に行われているので、そこからどう進んでも説得的なドラマたりえるのです。その変化の契機ですけど、やっぱり、「大臣が監視対象関係者に手を出した」ことなのでしょうね。任務に忠実な主人公がそれを許せないことは食堂での上司との会話で表現されていますし、あのタイミングで偽ベル音を起こしてドライマンを外に出させるなどというちょっかいを出すこと自体、本来の職務には不必要な行為であり、それまでの主人公にはなかったのではないかと思います。 【Olias】さん [DVD(字幕)] 9点(2019-08-15 02:06:38) |
25.《ネタバレ》 00年代、実際の出来事を“告白”でもするかのようなドイツ映画が複数撮られた。 一つは「ヒトラー ~最期の12日間~」によって戦時中を、 もう一つはこの「善き人のためのソナタ」によって戦後の闇を告白するように。
冷戦時代の尋問というとリシャルト・ブガイスキ&アンジェイ・ワイダによる「尋問」を何故か思い出した。 「尋問」は監視者が監視対象だった者から“証拠”をでっちあげ、自分のテリトリーに引きずり込んで散々痛めつける事で屈服させようとした。 この映画は、監視者が監視対象から“証拠”を引きずり出せるか出せないかという過程を追っていく。疑はしきは罰せよ、何かされる前に先手を打たなければならないという恐怖。 この二つの映画に共通する事は、一人の女性が他の人間のために“犠牲”になる事を選ぶということ。
劇中でも引用されるベルトルト・ブレヒトの存在。 ブレヒトもまた戦時下のナチスに反撥してフリッツ・ラングと組んだスパイ映画「死刑執行人もまた死す」を発表している。 ラングのこういった映画の女性たちが活き活きとしていた事に比べ、この映画の女性たちは観客の感情移入を許さないような深い闇を背負っている。
廊下、腕を捕まれ連れてこられる“監視対象”だった男。男の声からテープレコーダー→現在→過去を行き来する。 疲弊していく男の表情を知るのは立ち会った本人だけ、声を聞いて当時を想像するのは生徒たち、そしてこの映画のスタッフたちだ。 椅子に付着した“匂い”、涼しい顔で男を言葉によって弄り続ける男。教壇に立つ男は、自分の過去を隠すことなく、生徒たちに教えていく。きっと同じような“告白”を何度も繰り返してきたのだろう。
劇場の鑑賞会から既に監視は始まる。上からの視点・パンフレット。 標的の家に慣れた手つきで黙々と盗聴器とカメラを仕込んでいく。ありとあらゆるところに。 その監視者を“監視”してしまった者の視点。
この映画の監視者は、勝手に疑い、勝手に同情し、勝手に揺さぶられ、勝手に自分を緊張状態に追い込む。監視されている者は何も知らないし、生を謳歌している。知らない事の不幸・幸福。妻の隠す真実にすら中々気付けない。妻と楽しんでいる間も、情報は絶えず流れ続ける。 勝手にピアノの音色に心を打たれてしまうのだから。男の葛藤が表情一つで語られ、その音楽は監視される者たちの“抵抗”の証になっていく。 人の出入りが少ない“仕事場”で画面や針、タイプライターとにらめっこ、ヘッドフォンの音に耳をそばだてていなければならない。そりゃあ監視対象に興味を持って退屈しのぎもしたくなる。ハイタッチする気分でも無くなってくる。エレベーターで子供とおしゃべりをする一時、暇な時は豊満な情婦と楽しい一時でもせにゃやってられない。豊満なバストに顔をうずめても何処か満たされない様子。そりゃ監視者は人妻の方が気になるし、情婦とも真に仲良くなれない。偽りの愛だ。
その監視されている者たちが、監視者を意識し、恐怖し、反撃に出る瞬間の恐怖。スパイのように潜り込む男たちも、いつ監視者側を裏切る・・・いや表返るか解らない。 ケーキの下の“武器”、盗聴器への“祝杯”は監視者への宣戦布告。
監視者の存在を知りながらドアの鍵をかけない。床下の“武器”の存在を偽らないのも妻を信じていたから。 妻も夫を愛していたからこそ“言わなかった”し、“躊躇”しなかったし、耐える自信も無かった。監視者との決定的な違いがそこにあった。 床下を剥がす瞬間に奔る緊張。
一瞬映る新聞が物語る“終焉”、それぞれが失った物の大きさ。
ラスト20分は真実を知っていく者たちの顛末。 コードを引き抜く力なき姿、表情。大量の書類に眼を通し、人々の告白でも聞く様に読み進める哀しげな表情。
そこには互いを探り合った憎悪ではなく、直接会って語り明かす事のできない哀しみだけが横たわっている。 【すかあふえいす】さん [DVD(字幕)] 9点(2015-06-09 20:56:24) |
24.《ネタバレ》 哀しく美しい物語。ヴィースラーは愛国者だったんだと思う。国を愛しているからこそ、腐ったエロ大臣のやり方に反吐が出て、しかも相手が大ファンである女優(多少の恋心もあるだろう)であった事も要因のひとつだろう。自分は国家に逆らえない立場だが彼女には幸せになって欲しい。その一心だったのではないだろうか、と私は感じました。そしてベルリンの壁の崩壊。ラストの一言で私の気持ちも報われた。 【movie海馬】さん [CS・衛星(字幕)] 9点(2014-12-15 22:49:43) |
23.《ネタバレ》 超国家主義のもとで、国粋に徹していたシュタージのヴィースラーは、孤独だった。仕事場は光の届かぬ暗い部屋で一人。仕事が終われば待っているのは、誰もいない夜の部屋。彼の人生はあまりにも寂しく冷たいものだった。人は、立場によって善悪の見方は変わる。ヴィースラーが正義と信じた世界は、あまりにも冷たい世界だったが、ヴィースラーはそれを当たり前と信じて疑わなかった。だが彼は、明るく透明な太陽の光が差し込む、暖かなゲオルクとクリスタの部屋に温もりを感じてしまった。儚く消え入りそうな不自由の中の情熱的な自由。一曲のソナタ。彼の心にジワジワと今まで感じたことのなかった温もりが、全身に広がっていく。自分の意思とは反比例するように、身体はその温もりを欲していた。失うことを恐れていた。だから彼は守ったのだと思う。だから彼は見失ったのだと思う。彼は、それを行っていた間、幸せだったのだろうか?ぼくにはそれはわからなかった。だけど、彼が最後に手にした一冊には確かに温もりがあった。間違いなくあの一冊は、彼の人生に幸せを刻んだに違いない。孤独な彼を救ったのは、他人の人生の温もり。彼はあの後、どうなったのだろう?それが気がかりだけど、そんな心配は無用なのかもしれない。ラストに彼が言ったあの台詞。あれが全てのような気もする。 (蛇足ではありますが)演出、ライティング、カメラは本当に素晴らしかった。特に、ソナタを演奏する場面のシーンバック。孤独と二人、抜けの画の暗闇と、対称的に明るい照明、無機質な盗聴器を入れ込んだ画とピアノを入れ込んだ画。全てが似ているサイズで撮られているが、そこに映っているもののあまりの違いに芸術を感じました。 【ボビー】さん [DVD(字幕)] 9点(2012-09-04 14:29:22) (良:3票) |
22.《ネタバレ》 ヴィースラーの心変わりについては全然理解出来ます。マリアとドライマンのセックスに欲情して女を買ったシーンがちゃんと伏線になってますから。ラスト、ドライマンとヴィースラーを会わせちゃうの!?とハラハラしながら観ていたが、当然そんな野暮な演出はなし。粋なラストに仕上がっていると思います。 【カタログ】さん [DVD(吹替)] 9点(2011-11-18 12:42:54) |
21.エンドロールを見ながら、ああこれは「無法松の一生」にちょっと似てるなぁと思った。一種の美学ですね。人間にしかできない、きれいなこと。 【kagrik】さん [地上波(字幕)] 9点(2011-04-16 12:06:52) |
20.《ネタバレ》 彼は何故、監視対象者を幇助するような行動を取ったのか?その答えを同時進行的に辿る、そういう映画なのだと思った。
彼女に恋をしたからだろうか? 最初のきっかけはおそらくそうなのだろう。そして、原題にあるように、彼が自分と違う「他者の人生」に深く感銘してしまったこと。それが実際の理由なのだろう。
監視していた劇作家が恋人の裏切りを知りながら、彼女を許したこと。それは何故なのか。人を許すとはどのようなことなのか?彼はその答えを知りたいと切望した。劇作家が弾く音楽を聴き、その読む本を読み、その佇まいを想像し、彼はその本質に触れたのだと思う。彼は「他者」を発見したのである。そして、彼は二人の他者の人生に実際に触れる。
最後に彼は劇作家の本の謝辞に自分を発見し、それを「私のための本」と言う。それが彼にとって「他者の人生」を「そうありたい自分の人生」と重ねられた瞬間だった。彼の微かに誇らしげな笑顔がとても印象に残った。
※各自の点数評価のことなので僕にはどうでもいいことですが、邦題でこの映画の内容を判断するのはちょっと可哀そうな気がします。。。 【onomichi】さん [映画館(字幕)] 9点(2011-01-17 22:41:22) (良:2票) |
19.ドイツ人のみならず人類が大切にしていきたい映画のひとつ。実話ではないにせよ、東ドイツの抑圧された社会や東西ドイツ統一が人々にどのような影響をもたらしたかを改めて振り返る機会となった。全体としては当然悲しい物語だが、最後に素晴らしい場面が待っていました、この感動の余韻はもうちょい続きそうです。 【リーム555】さん [CS・衛星(字幕)] 9点(2010-11-04 21:33:06) |
18.序盤は重くて淡々と進むがラストが良くて見応えのある作品。 【BOW】さん [DVD(吹替)] 9点(2010-08-29 06:50:58) |
17.《ネタバレ》 あれだけの境遇の落差を覚悟出来たはずなのに、ヴィースラー大尉の心境変化があの曲を本気で聴いてしまったから、それだけに求めるのは根拠希薄か。導入部、あの講義の中で普通に異議を述べる学生の存在、それに×を付けさせるあたりに時代の変化を要因とさせる伏線なのだろう。しかし、その空気をドイツでしか深くは理解されまい。これが10点を付けない理由なのだが。それはともかく素晴らしい作品、しびれた。 |
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16.《ネタバレ》 クリスタとドライマンの別れまでの一部始終を盗聴したヴィースラー。それが、卑劣極まりないやり口での「監視」から、組織の一員としての責任と自身の出世を放棄する「見守る」へと変わってゆく様子を見るにつけ、狭い世界の中で情緒に乏しいまま生きる弊害に気づかされます。そして、思想統制という目的の下に、国家がそのような生き方を強いる事が、達成の為の手段以上に罪深いと感じました。彼に一言の言葉も口にさせることなく表現した演出と演技の上質さが忘れられない作品です。 |
15.社会主義の中、国家と良心(愛情?友情?)に悩まされるヴィースラーの哀愁が素晴しい。 重い雰囲気だが、映像&音楽が非常に美しく素晴らしい映画。 【のははすひ】さん [DVD(字幕)] 9点(2010-03-13 23:07:26) |
14.冒頭、ヴィースラーが舞台上のクリスタに恋をするシーンから、僕はこの作品の魅力に嵌ってしまった。 盗聴を通じて彼女を知っていくという卑猥さ、ファンとして彼女に道徳的なアドバイスを送る誠実さ、自らを犠牲にしてまで彼女を救おうとした献身。 なんとも言えない哀愁が後に残ります。 こんなにも切ない片想いを描いたラブストーリーがこんなにも重たいテーマの中で語られるという奇跡的なシナリオに敬意を払いたいと思います。 壁の崩壊ですらヴィースラーの中にある空虚のようなものを癒すことはできなかったようだけど、レジでの彼が少し笑顔だったように感じられたのがせめてもの救いです。 【もとや】さん [DVD(吹替)] 9点(2010-01-06 13:59:30) (良:3票) |
13.グッバイ・レーニンもそうだったが何で東ドイツを扱った映画ってのはこんなに面白いのか。「東の優等生」らしくある程度西側に近い生活は担保されていて居るにもかかわらずやはり理不尽な統制がされたプライバシーもへったくれもない市民生活のシニカルさとシュールさ。政治的にもソ連のような粛清の連鎖ということもないため重くはなく(失脚も日本のような島流し的な罰が多い)どこか無能さが滑稽で、そして最終的に壁崩壊という救いがあるからだろうか、単純に面白いと思える。あの悪名高き国民監視組織シュタージの実態をエモーショナルな脚本で描き出した優れた社会派作品。 最近北朝鮮から脱北した人が韓国社会に適用するための教育(地下鉄の乗り方など)のニュースを見たが、まさに現在これと同じことが起こっている朝鮮半島の正常化を祈る。それが果たされたときまた同じような作品が書かれるのだろうか…革命のためにも…正男!!しっかりしなさい!! 【Arufu】さん [DVD(字幕)] 9点(2009-06-25 01:18:12) (良:1票) |
12.《ネタバレ》 理不尽なことの連続、残酷で絶望的な場面多数なのですが、美しい映像と音楽、加えて、主演・国家保安局シュタージのヴィースラー大尉役ウルリッヒミューエの、重みのある演技が素晴しくて心揺さぶられます。ラストシーン、ジワジワきてたものが一気に噴出し涙が出ました。こんな静かにさわやかに感動を与えてくれるとは。 秀逸な作品です。 【ぷっきぃ】さん [DVD(字幕)] 9点(2009-05-15 03:08:16) |
11.《ネタバレ》 冷血漢に見えるヴィースラー大尉、それも無口でほとんどしゃべらない人にもかかわらず、その心情がありありと分かる。 そしてこちらが、大尉にすっかり感情移入してしまう。 映画だからこそありえる手法だを使い、難しい表現を丁寧に描いていることも素晴らしい。 この作品の質の高さには、舌を巻きました。
社会主義の時代を生き抜いた実感を、上手く表現しています。 【たんぽぽ】さん [CS・衛星(字幕)] 9点(2009-03-29 22:47:25) |
10.うまい言葉が思いつきませんが、最後まで見た人の心に必ず何かを残しえる作品です。もう最近こんな映画無いんじゃないでしょうか?見てよかった本当に。こんな時に表現する言葉が出てこない自分を恨めしく思う。そんな作品です。 【マキーナ】さん [DVD(字幕)] 9点(2009-01-30 00:19:48) (良:1票) |
9.静かに、そして淡々と進んでいくストーリーの中で、表情こそは変えないものの、確実に気持ちの変化が見られるヴィースラーが印象的でした。 ラストシーンは静かながらも、大きな感動を味わえました。名作だと思います☆ 【抹茶御膳】さん [DVD(字幕)] 9点(2009-01-25 21:37:48) |
8.《ネタバレ》 言論の自由が全くない東ドイツ。そんな国を代表するシュタージ(秘密警察)の申し子が、「芸術」をきっかけに自分の危険を犯してまで見せた人としての本来の姿。そして心温まるあのラスト。ディテールにもこだわりが感じられた傑作です。 【すたーちゃいるど】さん [DVD(字幕)] 9点(2009-01-18 13:39:01) |
7.《ネタバレ》 正直、長すぎました。途中で見るのが辛くなりました。しかし、最後の彼の一言で一気に目が覚めました。彼のその後の人生がとても気になります。。でも、幸せになれたんじゃないかな、という気もします。 【Shiori】さん [DVD(字幕)] 9点(2008-06-13 23:30:28) |