4.《ネタバレ》 監視者とその対象の物語が基本であり、監視する者が対象に憧憬を抱き始め感化されるのですが、ここで不満が残るのは対象のドライマンたちの生活が大して魅力的に見えないところです。機械的な人物である監視者が(コートまでロボットっぽい!)我が身の危険を顧みないまでの行動に出るのであれば、守るものがそれだけの価値を有していなければならないはずですが、例えば契機の一つとして使われる音楽の〝善き人のためのソナタ〟にしても聞かせるようなシーンにはなっておらず(曲の良さが問題ではない)、作り手側もそれを重々承知しているようで、わざわざドライマンが台詞でいかに良い曲かを説明してしまうという始末です(仮に〝のぞき〟による憧れだとすれば、監視者と対象の位置関係をもっと明確に見せなければならないと思う)。 また、尋問シーンにしても、ヴィースラーの顔がクリスタにバレないかというサスペンスとしてのクライマックスであり、同時に恋人を裏切ってしまう要の場面なのですから、もっと力入れて見せてほしいところです。 【ミスター・グレイ】さん [DVD(字幕)] 6点(2010-11-12 18:30:15) (良:2票) |
3.《ネタバレ》 レーニンがベートーヴェンの「熱情ソナタ」に対し「これを聴くと革命が達成できない。この曲を本気で聴いた者は悪人になれない」と言ったというエピソードが紹介される。芸術家を監視する、国家に従属する男の心の変化の伏線となっている。冒頭の尋問シーンや講義シーンからもわかるように主人公はそんじょそこらのことで動揺するようなタイプではない。だから監視される男女の思いやりや苦悩を見たからといって国家に背くはずなどあり得ない。やっぱりそこには真の芸術家が奏でる「善き人のためのソナタ」を聴いてしまったがための変化ととらえていいのではないだろうか。本物の芸術に触れた者はその芸術を守ろうとする。あるいは本物の芸術に触れた者はその芸術を葬り去ろうとする者が許せない。芸術を理解する者としない者に線を引き理解する者の側に近寄ってゆく。しかしここで大きな不満がある。監視者は「善き人のためのソナタ」で涙を流すが監視者を監視する我々には響いてこない。ここはオリジナルもいいが既存のクラッシック曲でも良かったかもしれない。そして何よりも重要なのはその曲をまるごと聴かせることだ。『トウキョウソナタ』のように。『夜顔』のように。我々が本物の芸術を感じないことにはどうにもならないと思うのだが。 【R&A】さん [DVD(字幕)] 6点(2009-03-25 13:34:19) (良:2票) |
2.《ネタバレ》 「私のための本だ」といったヴィースラーのラストの表情がすごくいい。 あれが救いとなって報われた明るい余韻となっている。 ただ、劇作家を助けるに至った心の動きが描ききれていないような…。 シュタージによる徹底監視のもとで、権力者が抵抗分子を弾圧する構造は嫌悪感と恐ろしさを覚える。 地味だけれどじんわりとくるいい映画で、丁寧にしっかり作りこまれている印象。 【飛鳥】さん [DVD(吹替)] 6点(2013-09-28 21:00:07) (良:1票) |
1.《ネタバレ》 ……そもそも芸術などまるで意に介さない男ヴィースラーが、ドライマンとクリスタの生活を監視し盗聴することにより、彼らの信望する芸術に触れ、その何たるかを知り、深く突き動かされ、その感動が彼の信念である国家への忠誠心を覆すほどにも大きく波打っていく……それがこの映画の根幹なのだと思っていた。 つまり、その感動が私たち観客にも与えられてこそ、この作品は成立し得るのである、と。
それが、問題のソナタはちょっろと弾かれるのみ、熱情ソナタへのレーニンの言葉でお茶を濁されるだけ。なんなんだ? 邦題とはいえタイトルが「善き人のためのソナタ」となっているからには、 少なくともそのソナタをもっとじっくり聴かせてもらいたいものだった。 それを聴かせないということは、もともとこのソナタには大した役割は託されていなかったということなのか? (じゃあ、ヴィースラーは何に感動したのだ? ドライマンたちの愛の深さ?演劇という芸術にかける彼らの情熱? しかし、どれをとってみてもどうもイマひとつ、残念ながら説得力のある要素はどこにもない。)
いずれにせよ、 このソナタがそれほどのファクターでないというのは確かなことなのだから、 何人かのレビュアー諸兄が仰られるようにこのもったいつけた邦題の罪は重い。
そんなわけで、本来は4点あたりが相当するところだが、ラストの「私のための本だ」というセリフに+2点しての6点を献上。 逆に言うなら、このセリフ以外に観るべきものはほとんどない映画と言っていいだろう。 【ぞふぃ】さん [DVD(字幕)] 6点(2010-11-24 18:03:18) (良:1票) |