9.《ネタバレ》 前略、セルマ・イエスコヴァ様。天国でいかがお過ごしでしょうか。私があなたと出会って、もう2年が経とうとしています。この映画を見終わった直後の事は、今でも昨日の事の様に思い出す事が出来ます。幸福な結末しか知らなかった私にとって、あなたの「死」という結末は、あまりにも衝撃的すぎました。しばし体が硬直し、身動き出来なかったのが今でもまざまざと思い出せます。見終わった直後は、感想を上手くまとめる事が出来ませんでした。が、日が経つにつれ、あれはこうなのだな、ここはこういう理由があったのだなと少しずつ整理し続けて、今に至ります。私は正直、この映画が嫌いです。私にとって映画とは、元気の薬、そうあなたにとって言えばミュージカルのようなものだから。あなたもミュージカルを演じたり、見たりして、不幸な気分になるのは嫌でしょう?それと同じです。あなたの選択も本当のところ、正しいとは思えません。ジーンの気持ちにもなってみて下さい。彼は光を与えられた代わりに、「殺人を犯して死刑になった」母を持つという過去を一生引きずって生きていかなければならない。それが元で人の道を踏み外してしまう事もあるかもしれないのです。それでも、私がこうしてあなたに手紙を書き、こうして伝えているのは、私があなたに最高の「敬意」を抱いているから。「死」というのは、生を受ける全ての者にとって、最も恐ろしい行為です。私も、あともう少しで死ぬとしたら、怖くて怖くて何も出来ません。しかし、あなたは自らその道を選んだ。何故かは私には分かっています。あなたにとって、ジーンはかけがえの無い存在であり、あなたが心の底からジーンを愛していたことは、私にも分かっています。その、愛する者の為ならどんな結末も恐れずに自分から突き進むあなたの心を、私は心から尊敬しているのです。もし私に家族の愛が信じられなくなったり、近い将来家族が出来た時は、この映画を見て、あなたの心を目で感じ、学びたいと思います。今の世の中は、親が実の子供を殺すという、悲しい事件が多く起こっています。でもそんな今だからこそ、私はあなたと、あなたの心がより大切だと感じているのです。「ダンサー・イン・ザ・ダーク」という映画のタイトル、「セルマ・イエスコヴァ」というあなたの名前、愛に溢れたあなたの美しい歌声を忘れる日など、私には一日もないでしょう。それでは、お元気で。さようなら。 |
《改行表示》 8.《ネタバレ》 「なぜジーンを産んだ」「(病気が)遺伝することは分かっていたのに」 この問いに対するセルマの「赤ちゃんをこの腕に抱きたかったの」という答え。コレとゆーのは、本当に人間のいちばん奥底にあるモノだ、とゆーか、人間からその人間性(善きにせよ悪しきにせよ)を根こそぎ奪い取ったとして、その最後に残っているのがコレだ、という様にも(私には)感じられたのですね。コレこそがヒトのヒトたりし最も美しい部分だ、と言っても好いものか、と(私としては)。私が今まで観た映画のどのシーンよりも美しいシーンだった、とも思います。本当に大好きですね。 今般、4Kデジタルリマスター版が公開されるってその予告編でドンピシャこのシーンが流れて、ついまた観に行ってしまいました。まあ、この肝心なシーンを予告編で流しちゃって好いのか?と思うトコロではありますケド。 【Yuki2Invy】さん [映画館(字幕)] 9点(2022-01-08 19:33:04) (良:1票) |
7.《ネタバレ》 徐々に、しかも確実に視力が失われていく恐怖は想像を絶するものがあるだろう。 一人息子もまた、同じ運命をたどるとなれば、もう現実から逃げ出したくなってしまうのは良く分かる。 セルマは、そんな人生に対する不安や、息子ジーンに対する責任、果ては自分の気持ちまでも、貯めたお金とともにドロップの缶に封じ込めてしまったのだろう。 そしてその缶にしがみつくことで自分を納得させながら、自分だけの夢想の世界に入ってしまったのかもしれない。 彼女は「ミュージカルの最後の歌は聴きたくない」と言うが、これは「物事を締めくくらずに逃げる」という彼女の精神構造を表していて、実際作中でも、「ビルのついた嘘」から、「キャッシーの友情」から、「ジーンに対して親として生き抜く責任」すら放棄して逃げている。 どこかで逃げずに立ち止まっていれば、何かが変わっていたかもしれないのに・・・。 まだ終わりじゃないと言う結末も逃避的。 それが結果、そこで全て終わりなのだ。 セルマという女性の愚直な純粋さと現実とのずれが、取り戻すことの出来ない大きな歪みとなって重く心に突き刺さった。 繊細な彼女の精神世界には多くの感情を喚起され、揺さぶられた。 辛く苦しい作品だが、傑作だと思う。 【Beretta】さん [DVD(字幕)] 9点(2006-06-17 03:05:54) (良:1票) |
《改行表示》 6.これは裏サウンドオブミュージックでしょう。 あちらは音楽を通して人々を幸せにして、多くの人々を結び付けていく世界が描かれているが、しかしこちらは、唯一の趣味のミュージカルに興じても、脳内ミュージカルで現実逃避を図ったとしても、結局は逃避でしかなく、現実を解決できるわけでもなく、その現実という救いのない世界が襲い掛かってくる。 現実逃避しか出来なくて、病気が遺伝すると分かってても子供を産んでしまった弱い主人公だが、その責めに対して、逃げることなく自分を賭して、最後まで自己犠牲的な愛を貫いている、それが唯一の救いと言えようか。 ドヌーブの「必要なのは母」というセリフに対して、「必要なのは眼」と主張している。手術をしなければ自分と同じ道を辿るであろう運命に対して、母(現実での逃げ)よりも眼(未来)という結論こそ、セルマの見出した答えじゃないのか。 映画としては、つらい内容なので評価は別れるだろうが、他の映画とは一線を画すセンス、衝撃的なラスト、線路や稽古場で警官に連れられていくシーンなど評価すべき点は多い。 この映画を見て嫌な気分になった人は「サウンドオブミュージック」でも見て中和することを薦める。 【六本木ソルジャー】さん 9点(2004-02-22 02:44:58) (良:1票) |
5.こんなにやり切れない思いを感じた映画は久々です。友達がこの映画は暗くてしばらく立ち直れなくなるから絶対オススメできない、観ないほうがいいと念を押され続けたので、気になってはいましたがずっと避けてきました。でも好奇心が募って覚悟して夕べ観ました。現実感を出すために家庭用ビデオで撮影されたらしいですね。本当にめちゃくちゃ現実感出てました。多少酔ってしまうほどでしたが・・・ビョークの空想のミュージカルシーンではカメラワークが替わるので酔いはなくなりました(苦笑)ビョークがとにかく表情豊かで演技も上手く、歌い踊るシーンも楽しそうでそれが余計観ていて苦しく切ない。。もうとにかくセルマに感情移入してしまって、同情心と悔しさが入り混じった気持ちが爆発寸前のところで涙になって発散された感じです。しばらく涙は止まることなく流れていましたが、あの衝撃のラストの瞬間ビックリしたのと、あまりの残酷な結末に唖然となり涙はピタリと止まりました。後味の悪さと言ったら天下一品です。これ以上ないと言ってもいいでしょう。しかしこの悪い後味がいい余韻となって、ずっと私の中に残り続けると思います。ハッピーエンドの気持ちのよい終わり方をする映画には到底起こらない現象です。あれっあの映画のラストってどうだったっけ?ということがよくあると思いますが、この作品の場合はそれがなく、むしろそれが一番強烈で忘れることが難しいくらいでしょう。セルマのあのみじめな人生を私はこれからもずっと忘れることができないと思います。もう1度観たいという気持ちにはなれませんが、観て本当に良かった作品です。貴重な映画に出会いました。 【未歩】さん 9点(2004-02-13 01:24:25) (良:1票) |
《改行表示》 4.《ネタバレ》 母親が子供を思う気持ちは、ここまで強いのかと感じた。 感情の動きがなんともリアル。死刑執行前のセルマに感情移入してしまい、恐怖さえ感じた。俳優と監督の才能を感じた一本です。 最初は、なんて暗い映画なんだ、と思ったけれど、 セルマが願った夢が叶うのだから彼女自身は決して不幸じゃなかったのかも知れない。 そういう意味ではハッピーエンドな訳だ。 セルマの空想シーンのミュージカル場面の、あの開放感溢れる雰囲気が好き。 彼女がハッピーなら私は、少なくともこの映画が嫌いではないです。 |
3.《ネタバレ》 「お盆」とは、ある母親が餓鬼道に落ちて苦しんでいたのを何とか救うために「七月十五日に亡き先祖や父母たちのために供養するように」と釈迦に教えられたことが由来しているそうです。ではなぜこの母親は餓鬼地獄に落ちたのか?その母親は我が子を愛していたから地獄に落ちたのです。母は我が子を愛し、我が子だけは幸せになって欲しいと願う。しかしそのために犠牲になる者もいるはずです。愛とは誰かの犠牲によって成り立つものだから。みんなを均等に愛せるわけなどない。誰かを見捨てて誰かを助ける。それが愛だと思う。監督はそういう事実を我々に見せつけ、愛することも罪の1つだと言いたいのでしょう。セルマが馬鹿にみえて自分勝手なのは彼女が真の母親だからです。真の母親は我が子を心から愛する罪人であり、地獄に落ちるしかない。このメッセージこそ監督の性格の悪さを一番表している。この監督は終始一貫して私たちが正義だと思っていることの中にも罪があるのですよ、ということを映画するのがうまい。 【花守湖】さん [映画館(字幕)] 9点(2003-10-15 23:01:53) (良:1票) |
2.基本的に悲劇は好きじゃないんだけど、この映画は別格でしょうな。ビョークが歌い踊るあの世界に引き込まれずにはいられなかった。「悲劇」という観点を越えて、この作品は人間の営みの中での最も高潔な「幸福」のひとつの形を描いている。 【スマイル・ペコ】さん 9点(2003-05-23 22:38:00) (良:1票) |
1.強硬裁判がアメリカで常識になっていないことを祈る。その不愉快を引きずったので-1点。他は満点。賛否あるラストも私的には最上。主人公の行動の異常さをとやかく言うのはナンセンスでしょう。 【電灯】さん 9点(2003-05-17 00:43:16) (良:1票) |