7.《ネタバレ》 伊坂幸太郎氏の原作を先に読みました。氏の作品の中では特にお気に入りの一冊です。映画化にあたり、本ならではの叙述トリックをどう料理するのか?と楽しみ反面、少々不安でしたが、これはうまいです。素晴らしいとしか言いようがない。基本、映画においては時系列で物語が進むべきで、回想シーンの多用はNGと思っています。でも本作の大半は実は回想ではなく、"ドルジ" を "河崎" と思い込まされた、椎名の解釈 (想像) なんですよね。山形人の存在により彼が事実を知った時、ペット店や動物園等々、彼の解釈はだまし絵に姿を変えドルジの回想 (真実) によって上書きされます。「椎名」の存在を最大限に活かした、映像による叙述トリック。監督の手腕に唸らされました。思えば彼はこの切ない物語の唯一の部外者 (巻き込まれ役) です。映画が初見の方は真実を何一つ知らず、いつの間にか彼と一緒に物語に巻き込まれ、そして一緒に騙される。すなわちこれは視聴者参加型の映画なのだと思う。映画が発信する言葉については言うまでもありません。"風に吹かれて" は、音楽という言葉の壁を越えて理解する普遍的な感動。アヒルと鴨は、見た目や肌の色ほど変わらないその本質。そして河崎とドルジと琴美の関係。そのどれもが、愛や友情に国境はない、といった大きなメッセージだと思います。 【タケノコ】さん [DVD(邦画)] 8点(2017-09-21 12:02:55) (良:2票) |
《改行表示》 6.《ネタバレ》 前半は、ただのぐだぐだ映画。失敗したかなあと思ったら、後半から急展開。 最後まで見て、前半が独特の意味を持っていることに気がついた。 確認する意味で、もう一度見直したくなった。 最初エイタがへたくそ演技だと思った。 実は名優だった。 2回目に見ると、前半が実に周到な布石になってることがよくわかる。 ああ、こういう微妙なことをしていたのかって、1回目とはまたぜんぜん違う見え方になる。 この映画のトリック知らずに見ることができてよかった。 この映画は、絶対ネタバレなしで見てほしい。 【ひであき】さん [DVD(邦画)] 8点(2010-10-21 13:38:48) (良:2票) |
5.《ネタバレ》 カワサキのカワといえば大抵は三本川の川なのに珍しく、河童の河だと名乗る河崎。30分もかけて本屋を襲撃したのに肝心の広辞苑を広辞林と間違えるそそっかしい河崎。シャロンとマーロンの小噺を「楽勝」で語る河崎。ボイスレコーダーに遺った、失ってしまった者たちのその声を、彼は一体どれだけの回数聞いたのだろう。河崎曰く「可笑しいな」の「しいな」と同じ響きの名前をもつ椎名は、人は好いけれど、隣室の住人が孤独なブータン人だと分かるとそれ以来深入りを避け、バスの乗り方が分からず声をかけてくるインド人の前を逃げるように通過する、典型的な日本人でもある。Bob DylanのBlowin' In The Windを口ずさみながら引っ越しのダンボールを片付ける椎名と、その背後に、奇跡に出会ったような笑顔で立つ「となりのとなり」の河崎。彼らが鴨とアヒルであるならば、「鴨とアヒルは違う」と悪気なく言う鴨の本をアヒルはどんな思いで盗んだのだろうか。それを思うと、どうしようもなく胸が痛む。原作に忠実な映画の宿命として、本作は原作を超えてはいないだろう。ミステリーに付き物である謎解きの答え合わせのような冗長さ、社会的弱者が鬱屈の捌け口として単独で行う場合がほとんどであるだろう動物虐待の犯人像を見るからに素行の悪そうな三人組にあてがうウソ臭さ、あまりに流暢な現在のアヒルの台詞回しなど、小説であれば誤魔化せても映画だからこそ浮き上がってしまうそれらを映画として巧く消化しきれない下手さは、どうしても拭えない。けれどそれでも下手なりに誠実に物語ろうとするこの映画が好きだ。ラスト、「もう一度」犬を救おうと車道に飛び出すアヒル。反復は過去と現在の状況の変化を強調する。彼のしたこと、そして失ったもの。一度目の時のように「犬を助ける俺が殺されるわけがない」という絶対的な法則を、罪を犯した彼はもう、もたない。映画はそんな彼にどんな結末が下されるかを不遜に描いたりはせず、誠実に、省く。彼のしたことが善いか悪いか、そしてアヒルは赦されるのか赦されないのか、その答えは神のみぞ知る。描かれるのはただ、車道に迷わず飛び出し行く彼の、それでも決して失わなかったもの、それだけだ。そして鴨がそうしたように、コインロッカーの中で電池が切れるまでBlowin' In The Windを歌いつづける神様に、映画もまたアヒルのため、ただただ切に祈るのだ。 【BOWWOW】さん [DVD(邦画)] 8点(2009-11-21 15:21:00) (良:2票) |
4.原作未読で大正解。ややテンポの悪い序盤だが、主人公のキャラがそうなのだからと納得して気長に構えて観ていたら、淡々とした描写なのに話はどんどん怪しい方向へ。後半はどっぷり作品世界に引き込まれ、急展開にもどこか哀しい予感があったような切ない納得感があり、この痛キモチよさは癖になる。今作品での瑛太の演技は素晴らしい。鈍臭い田舎者が本人の地道な努力で男前になるという人物像はちょっと「篤姫」の小松帯刀にも通じるものがあったが、帯刀以上に俳優としての力を感じられた。濱田岳はこの映画で初めて認識したが、若い頃のマーティン・ショートのようなあまりの不器用さに激イライラさせられるんだけど憎めない、という役にはまる俳優として今後の活躍が楽しみ。 【lady wolf】さん [CS・衛星(邦画)] 8点(2009-05-14 22:51:13) (良:1票) |
3.《ネタバレ》 伊坂作品の映画化としては、キャストや仙台の雰囲気も含めて、個人的にはほぼ完璧だったと思います。あの小説のユーモアと切なさが奇妙に融合した雰囲気を、とてもうまく再現しています。中盤では、前半に登場した回想シーンが違ったキャストで再現されますが、それが悲しいトーンを帯びて、全く異なった話に感じてしまうあたりは見事です。このへんは映画という表現媒体のアドバンテージをうまく生かした展開だったと思いますし、その難役をさらりと演じた瑛太もよかったと思います。ひとつだけ気になったのは、ディランのCDが「ベスト盤」だったこと・・・。「神」ですから、レコード盤とまでは言わなくても、せめてオリジナル・アルバムで持っていてほしかったなあと思ってしまいました。 【ころりさん】さん [CS・衛星(邦画)] 8点(2009-02-16 10:49:30) (笑:1票) |
《改行表示》 2.《ネタバレ》 原作を読んで、どういうふうに映像化されているのか興味があったのでDVDを借りて見た。あのトリックを映像化っていうのは難しいんじゃないのかなぁと、もともとあまり期待していなかったのも良かったようで、映画の出来にはかなり満足。 最初はちょっと退屈だったけど、松田兄が出てきたあたりから俄然おもしろくなる。濱田、瑛太、松田兄は役にぴったりで素晴らしい。特に瑛太が良かった。あんなに良い俳優だったとは。両人格演じ切れていたし、派手すぎず地味すぎず、ちょうど良いさじ加減の演技だったと思う。原作を読んでいるときから琴美があまり好きじゃなかったけど、映画の琴美にも魅力を感じなかった。これは個人的な好みなので仕方ないのでしょう。 原作を読んでいると、瑛太の流暢な日本語も、本屋が事件後すぐに本屋で働いてたわけじゃないことも、麗子さんの関わり方も、ちゃんと時系列や背景のことがわかるので違和感なく受け入れられるけど、原作を読んでいないと「どうして?」と感じることもあるかと思います。 めずらしく原作ファンを裏切らない良作。見て良かった。 【CRF】さん [DVD(邦画)] 8点(2008-09-06 21:59:17) (良:1票) |
《改行表示》 1.《ネタバレ》 とても面白かった。これはびっくり。 休み中、暇だし何か今日見に行こうかな、と軽い気持ちで選び軽い気持ちで見た 映画でした。途中まで寒いコメディか・・・?と思いつつ見ていた自分を 最後には叱ってやりたいほど素敵な映画でした。 寒いコメディかと思わせつつあんな巧みな構成だったとは。 ところどころで不満はあったものの全体としては良かったと思う。 えいた君に魅せられました。素敵だ。 映画とは関係ないかもしれないけど最近ペット関連で、悲しいニュースがあって 本当にイヤになる。 目の前を走り回る犬を見た彼女の目は忘れない。 強くしなやかに生きた彼女には惹かれる。 そして犬も猫も虐待し殺す人間に対して同じような目にあわせて殺したいと 思ってしまう反面、この考えも行き過ぎた愛護者のものだと思わざるを得ない。 人間は日々葛藤の中で生きていかなきゃいけない。 動物実験もして欲しくないけどしなきゃ人間の発展は無いのかもしれない。 この映画の中でも復讐ということについて、 肯定とも否定とも取れない姿勢に葛藤を覚える。 確かにこの世の中には生きる価値の無いような人間もいるのかもしれない。 しかし復讐も殺人だと言われると結局人間は他者の命をどう扱っていいか分からない。 複雑な葛藤の中で神様の存在をうまく描いていた。 神は自分の中に存在するものなのかもしれない。 【05】さん [映画館(字幕)] 8点(2007-08-05 04:12:08) (良:1票) |